73人が本棚に入れています
本棚に追加
ニコラは久しぶりに見たタリムにセレスタニアの面影を見て微笑んだ。
セレスタニアの血脈がそこにまだ続いていると知ってから、タリムに会うたび春の花が再び咲くのを見たような、晴れやかな気持ちになる。
「あの、なんですかこれ。相変わらず最低ですね。ミアさんに使うんですか?」
ニコラが提出した依頼書を千切らんばかりに握りしめて、タリムはニコラの向かいの椅子にドスンと座る。
「姫……私を軽蔑してくれてかまわない。しかし、もう他の手立てが見つからなくて……このままでは、ミアの了承を得る前にミアを無理矢理襲ってしまうかもしれないのです」
ニコラの懺悔をタリムは毛虫でも見たような顔で聞いている。タリムはほどほどに虫が嫌いだ。
ニコラはタリムに嫌われていることは承知していたが、タリムがそれを隠そうともしなくなったことで、ようやくタリムとの距離感が理解できてきた。
「やだなぁ、また変なこと言ってる。すごく面倒なので帰ってもらえませんか?」
「熟考のうえの依頼だ。どうか聞き入れて欲しい。ギルドは依頼者の願いを叶えるのだろう?」
「モノによります。申請は私が書類仕事を頑張ればどうにかなる話ですけど、私、単純に変態の片棒を担ぐのが嫌なんです。おじさんとか猛禽のおばさんとかにも筒抜けですよ? わかってます? これ完全に記録に残さなきゃならない薬ですからね。仕事場にも隠せませんよ。それと、猛烈に申請書類が面倒なんです!」
自白剤の使用は許可が必要だ。
平和的で公平な裁きの為に、ごく稀に使用申請書がギルドに提出される。
花街で事件があった場合に真偽を見定める為、または浮気疑惑の弁明の為という用途が多い。身に降りかかる大きな理由が無ければ、書類制作の時点で馬鹿馬鹿しくなって使用を諦める者がほとんどだ。
ギルドとしてはそれを受理した後も報告書類を作るのが大仕事になるので、カウンターに案件が持ち込まれると押し付け合いが始まる。ニコラはギルド側の事情を知らずにタリムを指名してしまったのだ。
「どれほど手間がかかってもかまわない。それに、もとより騎士を辞める覚悟だ――しかし、アディアール騎士や母上にも用途が知れるのか?」
「まぁ、必要があって閲覧を希望されれば、内容を開示します。そのくらい正々堂々とした用途でしか使えないってことですから」
最初のコメントを投稿しよう!