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「もちろん、正々堂々と使うことを約束する」
「うっそだぁ」
「ミアの為でもある」
ミアに求婚中だとニコラから聞いたような気がしたのは空耳ではなかったのかと、タリムはげんなりした。
タリムは恋に追い詰められて薬を使ってしまうような、変な勢いがあるニコラが苦手だった。
「ミアさんの為ねぇ……そうとは思えませんけど。使用用途や理由の記載が必要なのですが、お聞かせいただけますか?」
タリムは、蓼食う虫も好き好きと割り切って、投げやりに事務仕事に没頭することにした。
「ミアの気持ちが知りたい。そのために薬が必要だ」
ニコラはじっとタリムの目を見る。不実でも誠実でも見た目が変わらないのは、たちが悪い。
「ひぃ、なんですかそれ。超個人的な理由じゃないですか。普通に訊けばいいじゃないですか。気持ち悪いですよ――あ~、書きたくない、書きたくない。これを使ってミアさんから訴えられたら、騎士様は人生お終いですからね」
タリムは鳥肌を立てながらペンを動かす。
「わからないのだ。私に好意があるようなのに、求婚を受け入れてくれない。次の年季を買い取ると言っても断られた。何をどう言っても駄目だの一点張りだ。真意を確かめたい」
ニコラの苦悩する顔は至極真面目に見える。きっと馬鹿みたいな下ネタを言う時も同じ顔に違いないと、タリムはため息をついた。
「全ての女性が自分に気があると思ったら大間違いですよ。今言ったことも記録に残りますけど、大丈夫ですか?」
「そのつもりだ」
タリムは手を震わせながらニコラの供述を書類に書き込んでいく。「なにを聞かされているの?」と悲鳴はとっくに漏れ出ている。
「ミアの生活を助けたいのだが、真意が分からないうちは強引なことはできない。ミアに訊いても真相を話そうとしない。もう時間がないのだ」
「強引なこと? しようとしてるじゃないですか。もうそれ、犯罪ですね? っていうか、普通に、騎士様の事が嫌いなんだと思いますよ」
こうまでされて花街に助けを求めないミアのこともさっぱり理解できないと、タリムはバリバリと頭を掻いた。
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