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「でも、その子、君がいないと働けないんだろう? 一日中家に置いたら気の毒じゃないか。いくらお飾りの王の私だって、ここにばかりいたら、病気になってしまうよ」
「ですが……」
「だからね、騎士団でメイドとして雇うのはどうだい? 君が言うのだから、なかなか優秀なのだろう? 騎士団の管轄であれば、君も仕事ぶりを見られるし、花街も文句を言うまい。ギルドから派遣された体で取り繕えるように、ギルドの偉い人にお願いしてあげようか?」
ギルドの偉い人とは、おそらくギルドマスターのことだろう。
エイドリアンの立場で頼めば、そんな事が可能なのだろうかと、ニコラは一度だけ会ったことのあるギルドマスターを思い浮かべる。
あの男なら、造作もなく出来ることなのかもしれない。
「ミアは私の家人です。そんなことまでしていただいたら、公私混同が過ぎます」
ありがたい話ではあったが、自身の希望と騎士の規律と並べれば、ニコラは騎士の矜持のほうに大きく傾いてしまう。
(ミアが城にいるのは喜ばしいが、小汚い王子達の目に触れるところにミアを置くのは嫌だ)
騎士の矜持をとったつもりでいるニコラの本音が、たいそう利己的であることにニコラ自身は気が付いていない。
「そうかな? 騎士団に美味いお茶が入れられる茶汲みがいなくて楽しみがないと、リシルが言っていたよ」
「騎士にそのような贅沢は必要ありません」
ニコラが教えたので、ミアはお茶だけでなく家事一般も城のメイド以上に出来るようになっている。騎士団でお茶を入れることなど、易々とやってのけるだろう。
ミアは喜ぶかもしれないが、ニコラは心を決めかねていた。
「まぁ、リシルのいれるお茶はおいしいから、自分でいれればいのだけれどね。でも、リシルが小間使いのように動き回ったら、若い連中は嫌がるだろうなぁ」
「それは確かに……」
リシル・アティアールはその活躍が物語として語られるほどの有名騎士だ。安易にうろつけば、若者ばかりの騎士棟が混乱するだろう。
「君は、騎士の仕事はするけれど、徹底して私の身の回りの世話はしてくれないねぇ。メイドたちにはお茶を振舞うくせに、王子達に口喧しく指導するばかりで、世話したという話はきかないし……」
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