ニコラ様のお役に立ちたいのです

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 魅力的な触り心地に、手を離せずに押し付けられるままに弄っていると、硬くなった先をうっかり押しつぶしてしまう。 「っ……あっ」  ミアの唇から出た艶かしい吐息に我にかえったニコラは、ハッとして手を離して後ずさる。 「ミア! こ、こ、こ、こんなのダメだ!」  *  ニコラ・モーウェルはドルカトル国に仕える騎士だ。  ただの騎士ではない。自ら隊を率い、国王からの信頼も厚い。近衛騎士として国王の近くに侍ることもある。  由緒正しい騎士の家系の出身であるが、程々に娯楽も楽しむ砕けた性格で、誰からも接し易い印象をもたれている。  女性や子どもに親切で、人の失敗には寛大だし、ニコラ自身も努力を怠らない。その上、引き締まった体躯と涼やかな目元、容姿も優れているものだから、男女問わず憧れるものは多い。  地位も名誉も家名も人気もある。貶そうとして粗を探しても、嫉妬する余地がない程の完璧な騎士なのだ。  問題があるとすれば、ニコラの「姫」に対する妙な執着であろう。  この国にはかつて、美しい姫がいた。ニコラが幼い頃の話だ。早くに亡くなったが、ニコラにとって初恋だった。  伝説のアディアール騎士のように、自分の姫に仕えることを夢見て、ニコラは日々鍛錬を欠かさなかった。  鍛錬は多岐にわたる。  いつか出会う姫の日常生活の全てを世話をすることを想定して、剣だけではなく、掃除、洗濯、学業、社交、救護に介護に介助――姫の生活に張り付くつもりで、何から何まで学んだ。  ニコラの努力は認められ、騎士としての地位はあがっていく。しかし、皮肉なことに、この国には王子ばかりが生まれることになる。  次々と王子に王位継承権が授与される中、姫に仕えたいニコラは足掻いていた。  足掻くといっても性別ばかりはどうにもならないことだ。王位継承権を持つ姫が生まれるように、頻繁に教会に赴き神に祈った。  王家の血筋の若い夫妻に、精のつく食べ物を送ったり、こっそり産み分けの手管を伝授したりもした。  しかし、次から次へと王子が生まれ、モーウェル騎士に見舞われると男児を授かるというジンクスを残して、王位継承権の授与は終わった。  七人の王位継承を持つ子のうち、姫は一人もいない。  ニコラは荒れた。  やるせない気持ちで娼館に通って、娼婦を姫と呼ぶ遊びに耽ったこともある。
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