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今日のミアは、思い詰めた顔をしている。
「私はそんなつもりで君をここに置いているのではないのだ」
それとなく性の仕事をしたいと主張を続けるミアに困り果てていたが、現実に目を向けろとまで言われて、ニコラは苦い顔をした。
「飼い殺しはたくさんです。聞きましたよ、花街ではちゃんと娼婦の相手をなさっていたそうじゃありませんか! なぜ、わたしは駄目なのですか? ニコラ様は不能でも、わたしに反応しないわけでもないではありませんか!」
そうなのだ。
ニコラは女遊びが初めてなわけではない。
それなりの経験があるし、朴念仁というわけでも潔癖症でもない。
それなのに、買った娼婦を半年も手を出さずにただ身近に置きつづけている。
ニコラはミアが性的嗜好に合わないから抱かないわけではない。
子どもだと勘違いした骨と皮ばかりだった体型も、半年で女性らしい曲線を描くようになった。
大人の女性としての魅力は十二分にある。
しかし、最初の妖精と見まごう儚げな容姿の刷り込みが、強固にニコラを押し留めていた。
ニコラにとってミアは守り慈しむものであって、情欲の発散相手にしてはならない聖域だった。
尻込みするニコラに、ミアは段々と手口が大胆になり、ついに寝台に潜り込んでくるようにまでなった。ミアの体は柔らかく、ニコラの好みの石鹸の香りが官能的ですらある。
添い寝を許せば、次は腕を絡められ、次は「ニコラ様の好きになさってくださっていいのですよ」と耳元で囁かれる。キラキラと光る睫毛を伏せて、誘うように触れられれば、体が反応するのは致し方ない事だ。
ミアは、決心したように拳を握り、背をピンと伸ばしてニコラに向き直った。
「わたし、出稼ぎに出ます」
「何を言っているんだ?!」
「どう考えても、もう働ける体調です。いいえ、最初から働けましたけど。ここから花街の娼館に通って、ニコラ様にご奉仕できない分、稼いで、少しでもご負担分をお支払い致します」
ミアのきっぱりとした宣言にニコラは慌てた。
「な、な、な、なんだって?!」
「わたし、まだ処女なので、それを売れば少しは……」
「――しょっ! 処女っ?!」
ニコラは半年たってもミアの口から性的な言葉が出てくると動揺してしまう。
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