第1話 武者修行

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      2 「はぁ……」  数日後、舞は再び大きなため息とともに帰宅した。  今日は大きなミスをしたわけではないけれど、精神的にはかなり参っている。  舞は日頃から、先輩から言われたことや、先輩の動きを見て気づいたことなどをノートにメモしている。  その姿勢は先輩たちからも評価されていて、今では四冊目に突入している。  最近は自分の仕事にもすっかり慣れて、お店全体を見られるくらいに気持ちの余裕も出てきた。  そこで、ノートを書くことでなんとなくわかってきた、先輩たちの動きをフォローしようと試みたのである。  ところが、舞のその取り組みは裏目に出てしまった。  分業制が主流の洋菓子作りでは、頼んでもいないサポートはかえって迷惑になるらしく、舞はお店が開いている時間にもかかわらず、先輩のひとりから呼び出されて指摘を受けた。  余計なことをするなと言われたわけではないが、よかれと思ってやっていたことを無下にされたのはおもしろくなくて、それから舞は静かに自分の仕事に打ち込んだ。  今度はその態度がふてくされていると受け取られたようで、終業後に別の先輩から注意された。  職場の空気が悪いとは思っていない舞だが、今日のあれはよくない。  これが今後も続くようでは身が持たないかもと、そんなことを考えた。
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