第1話 武者修行

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 そんな舞にさらに追い打ちをかけたのが、友人のSNSの投稿だ。  帰りの電車で何の気なしにアプリを開いたのがいけなかった。  引き金となったのは、料理学校時代に仲がよかった友人が映された写真で、自作のケーキが商品になることが決まったらしい。  おいしそうなケーキと笑顔の友人がまぶしい。  彼女は舞と違って、洋菓子店ではなく小さなカフェの従業員になっている。  お店の形態が違うから簡単に比較はできないけれど、いつか舞がやりたいと思っていることをすでにやっている友人の様子を見ては、落ち込みもするしうらやましくもなる。  特に今日は気持ちが落ちているから、憧れよりも妬みのような感情のほうが強く出た。 「最近、ケーキなんて作ってないな……」  台所でお米を研ぎながら、こんなことをつぶやく。  ケーキなら毎日見ているし、生地を焼くだけなら一日に何度もやっている。飽きるということはないけれど、家でもやろうとはなかなか思えない。  炊飯器のスイッチを入れて、お風呂に入る準備をする。  今日は定時に帰れたから、食事も入浴もしっかりするつもりだ。
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