第1話 武者修行

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 先輩たちからは、単純な作業でも丁寧に、かつスピーディーにこなせるようになるのが一人前の近道だと言われ、それでやる気も高まった。  みんな同じ道を通っているんだと思えば、下積みだってがんばれると思った。  実際それで一年間努力を続けたし、二年目を迎えた今は、現場に立ってオーブンで生地を焼く工程をまかされるようになった。  もともとパイやタルトなどの焼きものが好きだった舞は、オーブンの前に立てるのが嬉しくてしかたがなかった。  特に、シュー生地がプーっとふくれるのを見るのが好きで、ようやく仕事が楽しいと思えるようになってきた。  ところが、今日は仕事中に大きなミスをしてしまった。  それ以外にもよくないことが複数重なって、心身ともに参った状態で帰宅したのである。 「……シャワー浴びよ」  今日の出来事が頭によぎり、舞はようやく動き出した。  嫌なことはすっぱり忘れるに限る、なんて強いメンタルは持ち合わせていないけれど、まずは体のリフレッシュを図ることにする。  ワンルームの一人暮らしだから、ベッドと浴室が近いのがいい。  実家にいた頃は、自分の部屋から移動するのが億劫になって、帰ってそのまま寝てしまうということも少なくなかった。
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