第1話 武者修行

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「……」  さっきまでは静かな部屋でも平気だったけれど、食事を始めたら音が欲しくなった。  テレビのスイッチを入れて、最初に出てきたニュース番組に目を向ける。  何事もなければ、今日は好きなバラエティ番組を見られたはずだった。  舞の帰りが遅くなったのは、オーブンでミスしたことが原因ではない。  今日起きたもうひとつの大きなトラブルは、注文したはずの材料が届かなかったことだ。  何をどれくらい発注するかを決めるのは先輩だが、業者に注文するのは舞の仕事だった。  届かなかったものは今日使うものではなかったから、営業に支障は出ていない。  お店が開いている時間は届くはずのものが届いていないなんて、誰も気にしていなかった。  だから今日も、閉店後に先輩から「食材が届いていないんだけど」と言われたときは肝を冷やした。  何のことかと思ったのと同時に、これも自分のミスなのかと思い至って気が気でなかった。  すぐに注文履歴を確認したのだが、舞はきちんと必要分を予定の期日に間に合うように発注していた。  まもなくして店の電話が鳴り、注文先の係の人から運送業者の手違いで発送が遅れてしまったという謝罪の連絡を受けた。
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