11人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話 武者修行
1
「はぁ……疲れた」
パティシエ見習いである長谷川舞は、帰宅するなりベッドに倒れ込んだ。
おなかは空いているしお風呂にも入りたいけれど、そんな気力も体力も残っていなかった。
憧れていた洋菓子店に就職して一年、舞は一人前のパティシエになるために日々修行に励んでいる。
修行と言えば響きはいいが、実際にやっていることは華やかさのかけらもない、地味で単調な作業ばかりだ。
新人として洋菓子店に入ったばかりの頃は、店の掃除や調理器具の洗い物、片付けが主な仕事だった。
いきなりお菓子作りに携われることはないとわかっていたけれど、料理学校時代と比べて食材に触れる機会が激減して、最初の一ヵ月くらいは自分の職業がなんなのかを見失いかけた。
それでも、先輩たちがケーキやタルト、パイなどを作っている様子を間近で見ることはできたから、いつか自分もと、見習いという立場を理解することはできた。
しばらくして、初めて製造にかかわれるようになったときは、すごく嬉しかった。
それがたとえ、砂糖や小麦粉の計量だったり、ひたすら卵を割り続けることだったり、生クリームを泡立てることだったりしても、完成したものを食べる人の笑顔を想像すればつらくはなかった。
フルーツを洗ってカットするという作業を任されたときなんかは、小躍りしたい気分だった。
最初のコメントを投稿しよう!