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私も席に座ると、教室のドアが開いて担任教師が入ってきた。
ところが、いつもは1人で入ってくる先生のうしろから、今日は1人の男子生徒がついてきた。
彼は先生よりもかなり背が高く、少し長い髪は顔にかかり、うつむき加減で、暗い印象を受けた。
「みんな席につけー」
その男子生徒を見た生徒たちはざわざわとしながら席についた。
「東京から転校してきた望月雄馬君だ」
先生が黒板に彼の名前を書いた。
「みんな、仲良くしてやってくれ。君からも何か一言」
先生に促された彼は小さく頭を下げ、
「よろしくお願いします」
と、小さな声で言った。
「席は学級長の隣な」
先生はいつの間にか廊下に運んできていた机と椅子を、廊下側の1番後ろ、私の机の隣に置いた。
「まだ教科書が揃ってないから、見せてやってくれ。それから、学校の案内もよろしく」
先生は私にそう言うと、教室を出て行った。
転入生は少しうつむいたまま、私の隣の席にやってきて、座った。
「私、学級長の姉ヶ崎佐知。よろしくね」
私がそう挨拶をすると、彼は顔を上げてこちらを見た。
「さち?」
彼はそう聞き返してきた。
私が自己紹介をすると、「あねがさき?」と聞き返す人は多いが、「さち?」と聞き返されたのは初めてだった。
私が返答に困っていると、
「ふーん、よろしく」
彼はそう言って、またうつむいてしまった。
人見知りなのかな、と私は思った。
やがて、1限の数学の先生がやってきて、授業が始まった。
「教科書の30ページを開いて」
担任教師が教科書がまだ揃っていないと言っていたのを思い出して、話しかけることにした。
「数学の教科書は持ってる?」
彼はこちらを見て首を横に振った。
「じゃあ、一緒に見よう」
私は彼の机に自分の机を寄せ、2人の真ん中に教科書を置いた。
「ありがとう。お姉さん」
彼がそう言ったので、私は驚いて彼の顔を見た。
「だって、姉ヶ崎さんでしょ」
さっきまで暗い顔でうつむいていた彼とは違う、
ちょっといたずらっ子のような顔でにっと笑った。
私はなんだか恥ずかしくなって、目をそらした。
なんだ、人見知りなんかじゃないじゃん。心配して損しちゃった。
私は前を向いて授業に集中することにした。
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