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午前中の授業が終わると、百合香が弁当を持ってやってきた。
私は昼はいつも百合香と一緒に弁当を食べることにしていた。入学当初は学食に行っていたが、弁当を持ってくる百合香と一緒に食べるために、自分で弁当を作って持ってくるようになった。
望月くんはお弁当あるかな、学食か売店を教えてあげた方がいいかな。
私がチラリと彼の方を見ると、鞄から弁当を取り出すところだった。
よかった。持ってきてる。
私は安心して、自分のお弁当を取り出した。
すると、何人かの生徒がやってきて、弁当を食べ始めた彼に話しかけ始めた。
どこから来たのか、どこに住んでいるのか、部活は何に入るのか、そんなことを彼を囲んで話し始めたので、私と百合香は落ち着いて食べられそうもなかった。私達はその場を離れて、廊下へ出た。
校内には廊下や中庭、屋上などにもテーブルやベンチがあり、どこでも弁当を食べることができた。
今日は教室を出たところにあるテーブルが空いていたので、そこで食べることにした。
「転校生はどんな感じ?」
百合香がそう聞いてきた。
「どうって言われても…」
私は答えに困った。朝の会話以来、それほど話をしていなかったのだ。
「まあ、彼氏持ちはあんまり興味ないか」
百合香が箸を口に運びながら言った。
「正臣兄さんは彼氏じゃないんだって」
私は少し怒ってみせた。
「ごめん、ごめん。そうなんだよね。でも、そう思っちゃうんだよね」
百合香が笑って言った。
そう思っているのは百合香だけではなかった。私のクラスの人も、正臣のクラスの人も、もしかしたら学校中の生徒がそう誤解しているのかもしれない。
正臣は生徒会長を務め、テニス部で活躍する人気者だ。私より1つ年上の正臣は、1年生の時から目立つ存在だったらしい。
その人気者が女の子と登校するようになり、時には下校も一緒だったり、廊下で親しげに話しているとなれば、噂になっても致し方ないところだと思う。
私の入学当初は、私を見てヒソヒソと話をする女子の先輩がたくさんいたし、上履きを隠されたり、ロッカーに落書きをされたりしたこともある。
それでも、入学して1年が経ち、そういうこともやっと落ち着いてきた。諦めた人もいるだろうし、私や正臣が否定するのを直接聞いた人もいるからだと思う。
とにかく、私はこのまま平和な学校生活を送りたいと思っていた。
「私としては、平凡な女子高生が学園の人気者と恋に落ちる恋愛ものが描きたいんだけどなあ」
百合香が私の顔をじっと見つめながら言った。
その時、教室のドアが開いて、望月が出てきた。
「私、望月くんに学校の案内をしてくる。百合香も一緒に行く?副学級長なんだし」
けれど、百合香は手をひらひら振って言った。
「私はパス」
仕方ないので、私は弁当箱を片付けて、1人で望月を追いかけた。
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