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客が遠巻きにしている空間に、ふたりの若い女性客がいた。
すましたほうが声をかけてきたが、これはお付きの侍女。
主人は半歩後ろに立った贅沢なドレスのほうだ。
リボンを編みこんだ赤みがかった金髪と、夢見るような菫色の瞳。
すんなりした首には、細い金鎖ひとつひとつに真珠を下げた首飾りが光っている。
「はいはい、あたしがエランです。ようこそお越しくださいました」
ぷんぷん匂う金の気配にエランはひそかに舌なめずりした。
「こちらは、オードバルド家のイルーゼお嬢さまにございます」
爵位も領地もわんさか持っている帝都住みの貴族だ。
エランはいっそう愛想よく、礼儀正しくなる。
「かの高名なるオードバルド家のご令嬢にご来店たまわりましたこと、身に余る光栄にございます。本日はどのようなご用命にございましょうか。なんなりとお申し付けくださいませ」
すると、令嬢はお付きの侍女を押しのけるようにして身を乗り出した。
「ええ、あなたにお願いがあってまいりましたの。わたくし、『皇帝と竜王の年代記』を読みましたわ」
深窓育ちの令嬢らしからぬ積極性だ。
金になる、と直感したエランは、そんな計算はおくびにも出さずにうやうやしく答えた。
「ありがとうございます。著者のアルドスも喜びましょう」
「わたくしのこの感激と尊敬の思いを、ぜひとも直にアルドス先生にお伝えしたくて。ご紹介してくださいませ」
令嬢はほんのり頬を染めた。
「は……」
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