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§ § §
エランの店は、今日もアルドスの著作を求める者でにぎわっている。
ただ、その数は以前よりは減っている。
店の奥でそのことを裏付ける資料をにらながら、エランは顔をしかめていた。
「そろそろ次の新刊が欲しいんだがなあ」
すっかり縁を切った実家にいた甥テスカードが訪ねてきたときは仰天したものだが、彼が原稿の束を出したときにはさらに驚いた。
一読して甥がこの傑作を書いたのかとまた驚き、違うと冷ややかに否定されて首をひねり、原稿料は不要と言われて小躍りした。
見込みどおり『皇帝と竜王の年代記』はあっというまに評判となり、第二巻も前作にも増して好評だ。
とはいえ、頭打ちは見えつつある。
ここは第三巻の発売で勢いづけたいところだが、テスカードから連絡はない。
いまだに著者だと認めないほど頑なな甥だ。
機嫌を損ねようものならものならあっさり移籍されそうで、催促もできない。
「テスカちゃん、怖いんだよねえ……」
顔をしかめて短い顎髭を撫でたところへ、店員が飛びこんできた。
「エランさま、なんだかすごいお客が!」
エランは店に出た。
店員が誰のことを言ったのかはすぐにわかった。
「──店主の方ですか」
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