〈4〉

1/3
前へ
/49ページ
次へ

〈4〉

事前に配られたプリントを見た瞬間。 青山亮は泣き出したい気持ちになった。 静御前。 彼女がいるなんて。 (しずに、もう一度会える…。) 念願だった再会は、皮肉にもまたしても戦場。 しかも今度は敵対するのだ。 これが泣かずにいられるか。 前世…『源義経』 コードネーム…『くらまの牛若丸(うしわかまる)』 彼はあの平家を滅亡へと至らしめた人物。 源氏の最大の功労者である。 怖いもの知らずで、奇抜な戦略において、沢山の平氏の命を奪ってきた。 そこにあったのは、たった一つの思い。 兄に認められたい…。 義経の兄は『源頼朝(みなもとのよりとも)』。 鎌倉時代を作り、武士たちの頂点へと君臨した男。 彼らは幼い頃に生き別れていた。 互いに別々に成長し、大人になり、平家打倒と動き始め再び相まみえた。 このとき義経は涙して喜んだ。 頼朝もこの再会を偉く喜んだ。 はずだった。 しかし、義経のその強さが、頼朝の心を少し。また少し、と蝕んでゆく。 純粋に打倒平家の名の下で手と手を取り合っていた兄弟の間に、徐々に入り始めるひび。 頼朝は戦に出るたびに功績を上げていく義経を、次第に煩わしいと感じていった。 己の利益のために義経を動かしているはずなのに、その成功に唇を噛む。という矛盾。 一方の義経は、ただ。 兄のためだけに戦い続けた。 己の戦績などどうでも良かった。 頼朝に喜んでほしい。褒めてほしい。 こうして二人の想いは交差していく。 最後は頼朝との決別により、義経は源を追われることとなる。 決別と言っても、それは頼朝の一方的な拒絶であった。 義経は最後の最後まで兄を求めた。 それでも叶わず、自害の果てに生涯の幕を閉じる事になる。 兄を恨んではいない。 しかし、最後に気がかりとなっていたことがある。 それが、吉野で別れた静御前の存在だった。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加