〈4〉

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今生の別れと知りつつ、共に自害することも叶わなかった。 彼が死の間際を共に果てることを選んだ相手は正妻。 それだけでも静の心はかき乱されていたのに。 必死の逃亡も虚しく、母と共に捕らえられた静。 あろうことか、頼朝は静に舞を望んだ。 彼女はその舞に義経への想いをのせる。 彼に対する深い愛を歌い、舞った。 これがいけなかった。 怒った頼朝は静を殺せと命じる。 静の母は懇願する。 更には静の舞に心打たれた北条政子(ほうじょうまさこ)が動く。 そうして救われた命。 またしても生き延びることとなった静は、当初、義経の子を身籠っていた。 それがわかると、源の血。 ひいては義経の血に怯えた頼朝が非情な決断を下す。 女なら命は助けよう。 男なら海に投げ捨てること。 産まれたのは男の子。 泣き叫び我が子を抱き締める彼女の腕を振り払い、取り上げられた子は、海へと沈んだ。 それをしたのは、静の母であった。 母が子を守るその一心で、彼女は最愛の子を亡くした。 その後、解放されてからの記憶はほとんど無い。 生きながらにして、死んだような日々を過ごしたことしか覚えていなかった。 あかりは思う。 (可哀想な私。こうして愛しい人と再会できるというのに、殺し合わなくてはいけないなんて。) 森の中で巫女装束は目立つ。 これ以上近付くと気付かれてしまう。 そのため、二人のやり取りは良く聞こえない。 だが。 自分の名を呼ぶ、その声だけは確かだ。 あかりはこれまでに沢山の男を殺してきた。 みんな自分を裏切っていく。 愛しても、愛しても。 結局帰るのは妻の元。 やはり、自分には義経しかいないのだ。 (私が悪いんじゃない。それなのに犯罪者扱いされて、こんな目にあっている。悪いのは裏切った方なのに。) そう思うと、あかりは一人静かに涙した。
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