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〈戦い・2〉
真衣は全身を駆け巡る嫌悪感に叫び出したくなる。
出会ってから男は自分をずっと『しず』と呼ぶ。
違うと言ってもまるで耳に届かない。
殺してやりたい。
しかし、厄介なのは隣の薙刀の男。
咲との戦いを目の当たりにして男の力がどれほどのものかはわかっている。
パワー勝負では勝てないだろう。
そしてこの男、召喚されているものだと予測するが、それならば真衣のスキルは通用しない。
真衣の前世スキル…『花魁道中』
能力…キセルを媒介とし、吐き出す煙の香りで、相手の思考、肉体全てを乗っ取ることができる。この煙は全身の毛穴からも吸収される。
ただし、効果は煙が出ているまでと短い。更にはスキルによる召喚物には無効。
(どうするか…。)
真衣は仮説をどんどん組み立てていく。
まず、男が手にしている笛。
多分それが媒介の道具。
吹いていなくても召喚されたものが消えないということは、無効条件は笛ではないのだろう。
そもそも操作の条件。それがわからない以上は精神操作しようがない。
(それにしても…。ペラペラとうるさい男。考えに集中できないわ。)
真衣の目線に気付くと、亮は更に独り言を続ける。
「あぁ、思い出したかい?この笛。懐かしいよね。僕が吹けば君が舞う。…それはそうと。しず。一体その格好は何だい?」
亮をまとう空気が一変する。
その体から発せられる強い殺気。
「君は、男装の舞姫だよね。君は、僕のもののはずだけど?」
笑みを貼り付けたその顔は、心とは裏腹で不自然極まりなかった。
真衣の肌がピリつく。
「お仕置きが必要なようだね。」
その先は互いに道具を口元へと引き寄せる。
真衣は長いキセルを深く吸い込み煙を吐き出す。
(やっぱり笛を使うのね。でも、あたしの煙の方が速…)
笛の音色が聞こえたと思った瞬間、大きな風が吹き込む。
(煙が!消える!!)
煙幕のように曇った頭上に薙刀が振り下ろされる。
真衣はそれを辛うじてキセルで受け、その力を利用して横へと滑らせた。
衝撃をかわされた薙刀の軌道は大きく半円を描いて地面へと叩き付けられる。
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