〈戦い・2〉

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「君はしずじゃないね。本当はそのキセルを見た時から少し変だとは思っていたんだ。だから警戒させてもらったよ。それが媒介とするなら、操作型もしくは、毒なんかを操るスキルかとね。煙がその効果を示すだろうと予想した通りだ。君の力は通用しない。この『弁慶』がいる以上、この戦いは僕の勝ちだよ。」 亮のスキル…『弁慶(べんけい)』 能力…笛の音で武蔵坊弁慶を召喚。特に特殊な力はないが、圧倒的なパワーと身体能力を持つ。一度召喚されると一定の時間消失しない。 ただし、弁慶の弱点である脛に攻撃が入ると消えてしまう。 真衣はもう一度キセルを吸い込み煙をふかす。 (相手も呼吸が制限される。それなら、あたしにも機があるわ。) 地面にめり込んだ薙刀を外し、またしても大きな風を吹かせる。 「もう辞めようよ。君の煙は弁慶が吹き飛ばしてしまう。僕には絶対に届かない。君は美しいからね。ひと思いに殺してあげるよ。」 真衣は焦りが隠せなかった。 亮が言うように、勝ち目がない。 (相性が悪すぎる。) 亮は真衣の表情を見てぞくりとする。 (あぁ。彼女も僕を愛してくれたんだね。) 女たちはいつだって最後には同じ顔をする。 亮はそれを見るのがたまらなく好きだった。 くだらない法律とやらで一生を牢獄で過ごさなければならないと知った時は、もう二度とこの表情を見ることがないのかと嘆いたが。 (パラダイスに行けば、自由だ。) 亮は笛を吹く。 弁慶の薙刀が左右と八文字を描く。 その刃はついに、真衣の首を刈り獲った。 遠のく意識の中で、真衣は思う。 (八文字、懐かしい。道中の花形。遊女たちの憧れの八文…字。それでも…あた…しは、自由が…欲しかっ…た…。) 首が切り離され、完全に停止した体に近付くと亮。 「君が、しずじゃなくて本当に残念だったよ。」 そう言うと、熱と頭を失ったその体を強く抱き締めた。 それを見ている存在に気付くこともなく…。 そこには静寂な時間だけが流れていた。 勝者…青山亮
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