〈5〉

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佐藤理央はこんな状況にも関わらず、海で遊んでいた。 理央にとって、この戦いに深い目的はない。 しいて言うなら『パラダイス』の響きだけが理由だ。 なぜなら彼女にしてみれば、牢獄はつまらない場所ではなかったからである。 前世…『マリアントワネット』 コードネーム…『フランス革命に消えた王妃』 若くして政略結婚をし、ルイ16世の妻となる。 マリーアントワネットは十分に満足していた。 政略結婚というと、嫌々だとか、無理矢理にだとか。 夫が憎くてたまらない。といった事もあったであろう。 しかし、彼女は夫にそう思ったこともなければ、その生活を窮屈と感じたことは一度たりともない。 むしろ、逆だった。 マリーアントワネットは王妃を大いに楽しんだ。 難しい事は何も考えなくて良い。 ただ、遊んで。遊んで、遊び尽くすのみ。 宮殿は彼女にとって大きな公園だった。 見るもの、食べるもの、全てに心が踊る毎日。 華やかに着飾り、美味しい物を食べる。 その宮殿の外ではどんな思いが渦巻いているか、そんな事を考えることもなく。 彼女にしてみたら、困ることなど何ひとつもない。 そして運命の日。 不満が爆発した民衆の手により革命が起きる。 その矛先は当然、国王と王妃だ。 捕らえられた二人の最後は、公開処刑。 広場に設置されたギロチン台。 熱気高まる民衆の声を一心に浴び、それでも尚、マリーアントワネットは自分がなぜこんな目にあうのかが理解できなかった。 (私は。パンがなければお菓子を食べれば良い。なんて言ってないわ。) それでも彼女の中で勝るものは好奇心。 みんな一体何にそんなに騒いでいるの? ギロチンって痛いのかしら?
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