〈5〉

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その姿に怯えはない。 ただ前を向き、ひたすら真っ直ぐに処刑台へと足を運んで行く。 途中、思わず前を歩く処刑人の裾を踏んでしまった時も。 「あら。ごめんなさい。」 と、淡々と言ってのけた。 あまりの堂々とした姿は、皮肉にも王妃として初めての貫禄を見せた。 彼女はギロチンにかけられるその時にすら声を発することは無かった。 理央は空想にふける。 今頭にあるのは、目の前の砂の絵を完成させる事だけ。 彼女には現実と虚像の垣根が無かった。 あの時のように、ただ夢の世界を生きている。 理央にとって嘘は嘘ではない。 それは虚言癖なのか、病的なものである。 彼女にしてみたら、口から出る言葉は全て真実なのだ。 理央はその言葉の数々で、これまでに総額数十億以上を手中に収めている。 例え相手が自己破産しようが、はたまた一家心中しようが、そんな事は関係ない。 そもそも、何故そうなってしまうのかがわからない。 そしてそのお金も一瞬のうちに消えてなくなってしまう。 どうして自分が罪人と呼ばれるのか。 昔から、ずっと。 それが解けない疑問の一つだった。 力道保は森の中で、獲物を求めて這いずり回っていた。 彼にとって、このパラダイス計画は最高のイベントであった。 何せ人を殺して良いのだ。 前世…『織田信長』 コードネーム…『天下布武(てんかふぶ)鬼将(おにしょう)』 乱世の世を震撼させた、冷酷非道の武将。 一部では『うつけ』とも呼ばれていたが、何てことはない。 信長は昔から、何故みんな規律や正しさに頑なに縛られているのか不思議だった。 こうでなくてはならない。など誰が言い出し、何故それに従うのかだろう。 彼は生まれながらにして人とは違う物の見方をしていたに過ぎない。 織田家は元々は家臣の身であった。 それを全国にその名を轟かせたのがこの男。 時には寺すらも焼き払い、僧侶も女も子どもも関係なく容赦なく殺めていく。 気に入らない家臣、失態を犯した家臣、それらも平気で切り捨てた。
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