〈5〉

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信長は思っている。 この世は競い合いであり、弱肉強食であると。 使えるものは使い、いらないものは捨てれば良い。 弱いものが強いものに服從するのは自然の道理だろう。 そこに一体、何の情があるというのか。 新しいものは取り入れるべきだ。 外国の物や、その知識、戦法だって使えば良いではないか。 恐いものなど何もない。 みんな一体何に怯え、何に危惧しているのかが理解できない。 そもそも、する気もなかった。 冷酷な仕打ちを淡々とやってのける一方で、信長は好きなものは好きであった。 妻の濃姫(のうひめ)の父である斎藤道三(さいとうどうざん)の窮地には駆け付けたし、後の秀吉(ひでよし)家康(いえやす)は可愛がった。 目新しいもの、奇抜なもの、個性の強いもの。 信長はこれらをお気に入りとする。 そうして、彼はその異質さ故に時のカリスマとして戦国時代に君臨した。 しかし、その恐れ知らずの性格が災いしたのか。 信長は側近中の側近である明智光秀(あけちみつひで)の手により暗殺されてしまう。 正確には、燃え盛る本能寺の中で自害をして果てた。 自分が謀反を受けた理由はずっとわからない。 光秀のハゲを笑った。だとか、大勢の前で叱り飛ばした。だとか、好き勝手に言われているが。 信長にとって重要なのは理由よりも事実。 光秀にはいつか、借りを返す。 恨み言ではない。 単純に、やられたからやり返す。 何十年、何百年とかかっても。 この場に光秀の名前が無かったのは残念だが…。 ここは良い。 人を殺めてはいけない、というルールがない。 牢獄は退屈すぎて地獄のようだった。 つまらない毎日。 そこから解放されたことが何よりだった。 (パラダイス計画は俺にとって、うってつけだよ。) 自由を得た野獣はほくそ笑む。 久しぶりの血の予感に、喜びが隠せなかった。
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