〈戦い・3〉

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実のところ、マリーアントワネットが理央になってから、このスキルは発動したことがなかった。 理央は処刑人の裾を踏めない。 というよりも、踏まない。の方が正しい。 彼女は処刑人を召喚し、鬼ごっこという遊びに夢中になってしまう。 すぐに終わったらつまらない。 それだけの理由で本来の目的を忘れてしまう。 いつもは自分が追いかけるだけだが、今回は違う。 自分を追うものがいる。 こんなに楽しいことはなかった。 咲には理央が何をしているのかがわからない。 発動条件に関わるのだろうとは思うが、その方法は予測できない。 理央が処刑人の裾を踏む、その一歩より早く。 審問員の手が理央を捕える。 (あ、捕まっちゃった。) 咲は見逃さなかった。 強制的に拷問椅子に縛り付けられる、その瞬間。 理央は笑っていた。そこから先はまさに地獄絵図。 審問員たちが問う。 お前は魔女か、と。 理央は絶対に認めない。 それどころか、拷問自体を楽しんでいた。 咲は自分のスキルがここまで引き伸ばされた事がなかった。 思わず込み上げる吐き気。 皮膚は焼けただれ、指先は真っ赤に染まる。 片目はもうなく、人としての形を辛うじて留めているかの悲惨な姿。 そうなってしても、理央は笑いをやめない。 (お願い。もう魔女と認めて。頷いてくれれば良い。) 咲はそう思いながらも旗を振るのをやめない。 いや、やめられないのだ。 それは恐怖。 こんな異常者を解放したら…。 正真正銘の狂人。 痛みがないわけではない。 それでも全てが遊びの一貫でしかないのだ。 体がボロボロに壊されていく中で理央は思う。 (死んでも次がまたある。また沢山遊べるわ。) 精神が保てても、所詮は人間。 肉体の限界は唐突に訪れる。 咲はようやく理央の息が途絶えたことに安堵していた。 火炙りに処されることなく拷問が延々と続いたことはない。 自分のスキルは何度も見てきたけれど…。 咲は始めて、このスキルに得体の知れない不快感を覚えた。 勝者…堂本咲
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