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亮の背中に汗が伝うのを感じた。
言いようのない不安感に飲み込まれる。
そして、あかりが口を開く。
「義経様を、許せない。」
あかりは袴の腰から扇子を取り出す。
パンッ!と小気味良い音を立て、それを開くと、美しい吉野の桜の模様が見えた。
あかりのスキル…『しずや、しず…』
能力…男の命を奪う死の舞。発動条件は、扇子を使ったその舞を最後まで見届けること。拘束作用は特にないが、魅了作用があり、よほどの強い精神を持たなければ目を離すことができない。
この魅了の力は愛情の振り幅で強弱するため、対象者への想いが強ければ強いほど効果が引き上げられる。
なお、女には完全無効である。
「あなたがあの女を殺したところまでは良かった。私が傷付いているのは、彼女を抱き締めたこと。それが悲しくて、悲しくて。」
あかりは扇子をしゃらんと振る。
「可哀想な私。」
大きく舞始めようと腕を広げた瞬間。
どこからともなく現れた男があかりを羽交い締めする。
あかりはふっと笑う。
「弁慶様。まだいたのね。戦いが終わってから消えたと思っていました。」
視界に映るのは笛を吹く亮。
そっと唇を離し、悲痛の表情を浮かべる。
「残念だよ、しず。君は何度も転生していく中で変わってしまったんだね。僕が愛し、僕を愛した君はどこへ行ってしまったんだい?」
ぎりぎりと締め上げる腕の痛みを隠すように、あかりは答える。
「いいえ。変わってなかんかいません。私は今でもあなたを愛しています。だから…、殺したい。」
あかりは腕の力を抜き、肩を緩める。
反発を失った弁慶の力は瞬間的に隙をうむ。
あかりは下に体を落とすと、素早く弁慶の脛を蹴り飛ばす。
召喚の無効化。弁慶は消える。
「弁慶様の弱点はお変わりないようですね。」
立ち上がり装束の砂を払うあかり。
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