〈戦い・4〉

2/3

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
亮の背中に汗が伝うのを感じた。 言いようのない不安感に飲み込まれる。 そして、あかりが口を開く。 「義経様を、許せない。」 あかりは袴の腰から扇子を取り出す。 パンッ!と小気味良い音を立て、それを開くと、美しい吉野の桜の模様が見えた。 あかりのスキル…『しずや、しず…』 能力…男の命を奪う死の舞。発動条件は、扇子を使ったその舞を最後まで見届けること。拘束作用は特にないが、魅了作用があり、よほどの強い精神を持たなければ目を離すことができない。 この魅了の力は愛情の振り幅で強弱するため、対象者への想いが強ければ強いほど効果が引き上げられる。 なお、女には完全無効である。 「あなたがあの女を殺したところまでは良かった。私が傷付いているのは、彼女を抱き締めたこと。それが悲しくて、悲しくて。」 あかりは扇子をしゃらんと振る。 「可哀想な私。」 大きく舞始めようと腕を広げた瞬間。 どこからともなく現れた男があかりを羽交い締めする。 あかりはふっと笑う。 「弁慶様。まだいたのね。戦いが終わってから消えたと思っていました。」 視界に映るのは笛を吹く亮。 そっと唇を離し、悲痛の表情を浮かべる。 「残念だよ、しず。君は何度も転生していく中で変わってしまったんだね。僕が愛し、僕を愛した君はどこへ行ってしまったんだい?」 ぎりぎりと締め上げる腕の痛みを隠すように、あかりは答える。 「いいえ。変わってなかんかいません。私は今でもあなたを愛しています。だから…、殺したい。」 あかりは腕の力を抜き、肩を緩める。 反発を失った弁慶の力は瞬間的に隙をうむ。 あかりは下に体を落とすと、素早く弁慶の脛を蹴り飛ばす。 召喚の無効化。弁慶は消える。 「弁慶様の弱点はお変わりないようですね。」 立ち上がり装束の砂を払うあかり。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加