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「流石、お見通しか。君がしずならわかるよね。僕がどれほどまでに愛が深い人間かを…。しず。愛する人を一生自分のものにしたかったら、どうするべきだと思う?」
亮がもう一度笛を吹くと、再び弁慶が現れた。
亮は続ける。
「殺してしまえば良いんだよ。それが究極の愛だ。しずと僕は良く似ているよ。愛せば愛すほどに殺したいと想う。僕らはいつだって戦に邪魔をされる。もう二度と離れぬように、君をここで殺そう。」
「あぁ。嬉しい。義経様はそこまで私を想ってくれている。」
あかりの感情が昂ぶる。
彼女の死の舞が始まろうとしていた。
亮はこの舞が、あかりはこの笛の音が、お互いのスキル発動のトリガーだと予測している。
互いを知り尽くしているがゆえの警戒。
義経の笛。
静御前の舞。
その隣には弁慶の姿。
それは二人にとって酷く懐かしく、ずっと求めていた光景。
(でもね、義経様。)
あかりは手に持っていた小石をピンと弾く。
その小石は亮の笛へと当たり、手元を狂わせた。
その一瞬の差。
あかりの舞が亮を捕える。
その愛が深ければ深いほどに、体を蝕む猛毒となる。
あかりは、絶命した亮の傍らにそっと腰掛ける。
そして、髪を結っていた紐を外すと、互いの手首にきつく絡み付ける。
「私は、二度と離れぬように。ずっとあなたと一緒に死にたかったんです。あの時から、ずっと。それが私の愛の形。」
繋がれた二つの手。
この手がもう二度と離れぬように。
そして、森の影へと声をかける。
「見ていたのでしょう?さぁ、殺しなさい。私の願いはもう叶ってるの。」
不意に呼吸が止まる。
あかりのお腹に空いた穴は、静かにその命の灯火を吹き消した。
男は独りごちる。
「ふん。胸糞悪い喜劇だったが…。俺は変わり者は嫌いじゃないんでな。せめて形はのこしてやったが、気まぐれだ。運が良かったな。」
そして再び森の中へと消えて行く。
残された二つの遺体。
それはまるで眠っているかのように。
仲睦まじく、そっと寄り添いあっていた。
勝者…本田あかり
勝者…力堂保
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