〈6〉

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〈6〉

赤石桜は求めている。 ずっと、ずっと探している息子の存在を。 一体どこに転生したのか。 それとも…。 全部、夢だったのだろうか。 いや。 あの日々は現実だ。 私は確かに、あの馬小屋で『彼』を産んだ。 前世…『マリア』 コードネーム…『聖母(せいぼ)マリア』 彼女が聖母と言われる所以。 それは、息子の『イエス・キリスト』の存在であり、その懐妊の様子にある。 アリアは男を知らない。 子を身ごもる経験など、人生で一度たりともない。 それなのにキリストをその体に宿した。 ある日マリアは夢の中に天使が現れ、懐妊の告知を受ける。 すると、どうだろう。 彼女は本当に身ごもったのだ。 キリストがなぜ、神の子と呼ばれるのか。 彼は、神が授けた子なのである。 その我が子が処刑されてから、どれだけの時がたったのだろう。 マリアはまだ転生したであろう息子と会えていない。 (私は母親だから、会えばきっとわかる。あの子は特別な子なんだから。) 桜はこの歳にして、もう何度も懐妊している。 何十回と妊娠と中絶を繰り返し、彼女の元には一人として産まれてくることはなかった。 その理由。 桜が求めているのはキリストだけ。 彼女は彼と再会するするためだけに妊娠し続けたのだ。 前世で深い繋がりを持つ相手は、意識的、又は無意識的にも再会を求めてしまうものだが。 桜のそれは異常であった。 彼女の妊娠への願望は時に、相手への大きな負担となる。 自分の望みを叶えてくれない男は躊躇せず殺した。 沢山の人を殺め続けた日々。 桜が捕まった日。 その犯行現場に駆け付け、現行犯逮捕をした刑事は社会復帰が見込めないまま今も入院している。 そこにあったのは死体なんかではなかった。 スキルを使って殺害された遺体は、得てして大概が酷い有様なのだが。 彼女のスキルは上記を逸していた。
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