〈6〉

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血にまみれたマリア。 聖母が聞いて呆れる。 連行されるとき、彼女は言った。 「牢獄でも妊娠できるよね?」 あの時の桜の笑みが、当時の刑事の脳裏に今なおこびりついて払拭できずにいる。 今桜が望むのはパラダイスへの希望。 そこへ行けばきっと息子と巡り会える。 「私は神の子を産んだの。何をしても許されるべきだわ。」 誰に聞かれるわけでもなく、一人呟くと、桜は海岸へと歩みを進めた。 工藤仁は物思いにふけっていた。 (あぁ。いけない。こんな所で物語を紡いでいる場合じゃない。) 今、仁の目の前には寄り添う男女の遺体。 彼はそれを見て、ここで何があったのかを『作って』いた。 前世…『シェイクスピア』 コードネーム…『天才劇作家(てんさいげきさっか)』 イングランドに産まれ、ルネサンスの演劇において数々の名作を生み出した男。 彼の着眼点は、まさに天才。 その優れた観察力をもって、精巧に描かれる人間の心理描写は圧巻である。 シェイクスピアといえば、『ロミオとジュリエット』といった誰もが知る作品がある。 しかし彼を有名に至らせたのは四大悲劇である『オセロー』『ハムレット』『リア王』『マクベス』だ。 これらは人生をテーマとした作品で、彼の深い洞察力が良く現れている。 なぜそんなにも心に残る悲劇を生み出せたのか。 彼の人生は苦もなく平和な日々。 裕福な家庭に育ち、自らが成功者となり、人生を駆け抜けた。 産まれてから死ぬまでずっと、ジェントルマン。
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