6人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
〈戦い・5〉
その組み合わせは最悪であった。
咲の前に現れたのは、純白のワンピースをまとった天使そのもの。
先程の戦いで、初めて自分のスキルに恐れの意識を覚えてしまった咲。
神々しく美しいその女は、長い髪をたなびかせ、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
汚れが落ちていく。
まるでそんな気持ちになる。
咲が見ているものは、本物の天使だ。
頭上には天使の輪、背中には大きな翼が左右に広がる。
そしてその横にいるのは、ラッパを手に持った女。
前髪が長く、顔を覆っている。
天使と同じように白いワンピースを着ているが、全体的に暗く、ぼんやりとした印象だ。
(この女が召喚したのか?だとしたら…、まさか。マリア様?)
桜のスキル…『受胎告知』
能力…媒介であるラッパを吹き鳴らし、天使ガブリエルを召喚する。ガブリエルも同様のラッパを持ち、それを吹くと、音が聞こえたものの腹をどんどん膨張させる。一度膨れ始めると破裂するまで膨らみ続ける。
一度の召喚で一吹きすると、その後は一定時間が立たないと再召喚できない。
桜は辺りを見回す。
何ともおぞましい光景。
「これは、あなたがやったの?」
咲は、あの惨劇を思い出し、またしても黒いもやが心を覆う。
「…はい。」
桜は顔を歪める。
何と残酷なことを。
人であったであろう、この残骸を見ただけで、どれほどに残忍な事が行われていたかと想像できる。
しかし、どうだろう。
桜には咲の態度がうやうやしく見える。
すると視線に入るフランス国旗。
(ああ。この女。ジャンヌダルクか。)
桜は納得がいく。
彼女は確か、神の指示により戦ったと証言してこの世を去った。
それならば。
(こいつは、私には手を出せない。)
思わず口元に笑みが浮かぶ。
「何と酷い事を…。神の意を組み、国のために戦った英雄ともあろう者が。」
最初のコメントを投稿しよう!