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〈戦い・6〉
(…なるほどね。)
海岸近くの森に潜み、女たちの戦い。と、いっても一方的なものであったが。
その一部始終を見ていた仁は、今見聞きした情報を解析していく。
(あぁいう馬鹿な女ほど、僕はやりやすいよ。)
推測するに。
アリアを前世に持つという女。
彼女はその事に大義名分を掲げている様だ。
しかし、そこに迷いが見て取れる。
その証拠に、命果てた者にまで己の正論を吐き出していた。
わざわざ、言葉に出さないと揺らいでしまう何かがある。
仁はそう捉えた。
(さてと。答え合わせといきますか。)
仁は静かに桜へと近付く。
呆然と咲の遺体の前で立ち尽くしている桜に、突如として声がかかる。
「ブラボー。お見事。」
びくりと体を震わせその声の主を一瞥すると、思わず出る舌打ち。
タイミングが悪い。
ガブリエルは召喚してしまった。
もう一度呼び出すには時間をおかなくてはならないのだ。
「あ、警戒しないで?少しお話をしようよ。」
そう言いながら、仁は密かに自分のスキルを発動させた。
仁のスキル…『最高傑作は我が手で』
能力…相手の心を見透かし、その人の弱点から能力、全てを読み取ることができる。死に至るまでを一作品とし、物語の主人公を演じさせるための誘導をする。その言葉への説得力、浸透力が高まり、一つの作品を作り上げる。
ただし、強靭な精神を持つ者。自我がとてつもなく強い者には効果が弱まる側面を持ち合わせている。
仁の中に流れ込む桜の情報。
注目すべきは、その中にある不安の種だ。
「君の能力は恐ろしいね。見ていたよ。」
少し嘘。
本当はスキルによって覗き見た。
視界による情報では何が何だかわからないうちに、相手の腹が裂けたのだ。
どうも、あの天使を召喚されると厄介だ。
あの攻撃は避けられないだろう。
しかし、先の戦いで今はインターバルが取れている。
この時間で決着をつけねばならない。
一方、桜は困惑していた。
男が何をしたいのかが読めない。
どんなスキルを持っているかもわからない。
(どっちみち時間が必要だし…。話してみるか。)
「他人にスキルの感想なんか聞いたことないわ。」
「はは。だよね。君のスキルは発動したら最後。生きてられないだろうからね。流石、マリア様。」
「私が誰だかわかっているのね。」
仁は些細な反応すらも見逃さない。
今、彼女の口角は少し上がった。
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