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桜は『マリア』という存在が大きな依り所になっている。
仁はそこを良くわかっていた。
なぜ、それに縋るのかも。
「君がマリア様じゃなきゃ天使なんか扱えないよ。でもさ。聖母様の事だから、人を殺めるのは本当は苦しいでしょう?どうしてそんなに無理をするの?」
桜の心に一滴の波紋。
仁は桜の心にある小さな良心に揺さぶりをかける。
彼女は確かにマリアなのだ。
進むべき道を間違えた、聖母マリア。
天使に愛された彼女にとって、今の道は本当は苦しいはずだ。
だから『神の子の母』という大義名分で正当化させているに過ぎない。
(可哀想な女だ。でも馬鹿だよ、あんたは。)
本来の生き方をしていれば、さぞ良い母になれただろうに。
子を求めるあまりに狂ってしまった哀れな女。
イエスキリストの存在。
それこそが彼女の弱点だ。
「彼を探しているんだね?」
桜はハッとする。
「何か知っているの?!」
仁は頭を振る。
桜に差し掛かった光は再び消えていく。
殺戮。慈愛。悪行。母性。後悔。納得。
相反する二つの精神の辿り着く核。
自分は特別だから許される。許されなくてはいけない。という気持ち。
徐々に追い詰めていく仁。
「でもさ、キリストが転生している話は僕はこれまで聞いたことがないよ。彼が転生すれば大きな話題になるはずだ。もしかしたら、神の元にかえったのかもね。」
桜の顔が青ざめる。
「あるいは…。最初から存在していなかった。とかね。」
「そんなはずない!私はあの子を産んだのよ!現に私にはガブリエルがいるじゃない!」
(さぁ。コアを突いた。)
仁は少し困った表情を浮かべる。
「でもさ、本当に天使なのかな?いくらマリア様とはいえど、人間如きが天使を召喚できると思う?」
「天使に決まってるじゃない!!私は神の子の母親なのよ?!その辺の人間と同じじゃない!選ばれた者なのよ!!」
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