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「まあ、この世界と変わらず父さんも母さんも君らもいるわけだから、殴る蹴るされたりする暮らしだったわけではないよ」
カラカラとニキビの残る頬いっぱいに浮かべた笑顔に嘘は感じない。
「向こうでも西瓜や桃は食べたしね」
その言葉をしおに進はまた銀の勺子を取って赤い果肉をサクリと掬う。
その様を目にすると、手の中に握り締めて熱くなった金属の感覚が蘇った。
私ときたら今までずっと勺子を持ったまま話していたのだ。
進の目にはさぞかし間抜けに見えただろう。
そんなことを思いながら、食べ掛けの西瓜をザクッと抉る。
口に入れた赤い果実は舌触りは生ぬるく甘ったるいのに噛み砕くと中途半端に冷たい汁が滲む。
――仲秋の明月には家族皆でおいしい月餅!
誰も見ていない電視からは宣伝動画特有の一段階大きい音量の声が流れてきた。
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