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「それは」
進が言い掛けた所で、唐突に悲しげな簫の音色が響き渡った。
古い影像特有の、薄い膜を通したようなくぐもった調子を帯びた音色だ。
「誰と行ったの?」
別に観たくもないのに逸らした視線の先では、夕陽の沈む湖の背景に「越女記」と黒い毛筆書きの題名が浮かび上がっている。
この時間帯にいつもやる時代劇の再放映だ。
私たちが生まれるより前に作られたので影像にも音声にも微妙に傷が入っている。
「俊甫は……」
思わず振り向くと、潤んだ光を宿した大きな目とぶつかった。
「半月前、一緒に電影を見に行ったけど」
向かい合う瞳が涙を宿したまま空ろになる。
「私は彼を友達としてしか好きじゃない」
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