青梅竹馬《おさななじみ》

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――足掻(あが)いたところで、人の心はどうにもなりませんわ。  電視から女性にしては低いが澄んだ声が流れてきた。  これはきっと劉蘭慶(リウ・ランチン)西施(せいし)ではなく王雅鳳(ワン・ヤーフォン)鄭旦(ていたん)だ。  ()けっぱなしの電視を振り向けないまま当たりを付ける。  西施と共に呉王夫差(ごおうふさ)の下に送られた越の美女で、祖国への忠誠と夫差への愛情に苦しむ役どころだ。  演じた王雅鳳が若くして癌で亡くなったせいもあり、今でも別な女優が鄭旦を演じると、「彼女には及ばない」と約束事のように貶される。  後に演じた女優たちもその時々で持て囃された美少女麗人揃いなのだけれど、雛鳥が最初に目にした動くものを追い続けるようにこの“薄命佳人”に軍配を上げる人は減らない。  小學生(しょうがくせい)の頃に買った歷史漫画(れきしまんが)でも西施は目の大きいはでやかな顔立ち、鄭旦は切れ長い瞳の中性的に端正な面差しで、この「越女記」の劉蘭慶と王雅鳳に似せて描かれていた。  史実の本人たちがどうかは確かめようがないが、私の中でも繰り返し目にした鮮やかな別人の面影が刷り込まれてしまっている。
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