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「そう、君はそう言うんだ」
向かい合う進は目に涙を溜めたまま再び十歳も老けた風な笑顔になる。
――自分を偽るのは、嫌いです。いつかは皆に判る。
後ろから流れてきた甘く優しい声は劉蘭慶の西施だろう。
この女優さんは五十を過ぎた今は西施を演じた頃の柳腰の美女から風貌も体型も随分貫禄が付いてしまったけれど(若くして病死した王雅鳳の鄭旦が根強く称えられるのは、生き続けた西施の方があまりにも変わってしまったせいもある気がする。お父さんお母さんによると目立った恋の噂もないまま独身で亡くなった王雅鳳に対して劉蘭慶は西施を演じた頃から艶聞の多い人だったそうで、結婚も今の夫で五回目だそうだ)、蜜のように艶のある柔らかな声だけは変わらないので一声聞くとこの人と分かる。
「向こうの世界のカオリもシュンスケにそう言うんだ」
私や進と比べると、俊甫は向こうでもさほど変わらない名前のようだ。
「友達としか見られないとね」
首を横に振る進の瞳から光る粒が尾を引いて溢れ落ちた。
何故、彼が泣くのだろう。
あの時、言われた当の俊甫だってそんな顔はしなかったのに。
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