3人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
「これ、今、秀雄の幼兒園でも流行ってるんだって」
西瓜を齧りながら、出来る限り、普段通りの話をしようと切り出す。
電視では「魔法少女白蘭」が佳境に入った所だった。
鮮やかな青の旗袍を纏った白蘭が手にした魔法棒の先から光線を放っている。
敵役の暗獅公子に当たった。
こちらは京劇風の厚化粧をした顔に金に染めて巻いた長髪、暗紫色の漢服を纏い、青竜刀を手にしている。
――アイヤーッ!
いつも通り、この敵役が悲鳴を上げる展開だ。
白蘭を演じる女優は私たちより一つ上の十八歳、暗獅公子は確か二十四、五歳だが、雑誌で目にした素顔に近い写真だとむしろ地味に整った顔で今の進に何となく似ている。
「そうなんだ」
明らかに一度思い切り刈られて伸びる途上だと分かる坊主頭の相手は自分で淹れたばかりの鉄観音を啜りながら懐かしげに微笑むと、念を押すように続けた。
「こっちでヨウチエンの女の子たちが観てるのは魔法少女とか神仙公主だよね?」
「そうだよ」
私は咳き込むのを押さえて鉄観音を流し込む。
そんな風にして甘ったるい西瓜を嚥下すると、喉の奥にひりつくような痛みが残った。
最初のコメントを投稿しよう!