青梅竹馬《おさななじみ》

5/35
前へ
/35ページ
次へ
 茶器を置くと進は思い出した風に尋ねた。 「ヒデオ……じゃなくて秀雄(シウユウ)は、今日はまだ(よう)……兒園(じえん)かな?」  私の小さな弟の名前につまずいた代わりに、やっと「ヨウチエン」(文字にすれば『幼稚園』とでも書くのだろうか)という妙な言い回しをしなくなった。  何だか長らく外國(がいこく)にいて母語を忘れかけた人が手探りで正しい言葉を当てはめようとしているみたいだ。 「今日はお休みだから、お祖父ちゃんと出掛けたよ」  この言い方なら直に通じるだろうか。  こちらも不安になってくる。 「『小戒旅遊記(しょうかいりょゆうき)』の電影(でんえい)を観に行ったの」  豬八戒(ちょはっかい)の息子で可愛い小豬(こぶた)の小戒が活躍するお話だ。  幼兒園の女の子たちの間では「魔法少女白蘭」が人気だが、男の子たちが好きなのは「小戒旅遊記」だ。  うちのおもちゃ箱は一回り下の弟が集めた小戒と仲間たちの人形やら絵本やらで溢れている。  今日はお祖父ちゃんと出掛けたから、またおもちゃの仲間が増えるはずだ。 「そうだ、エイガは電影だったな」  進は試験で思案する時の顔つきになった。  これは二ヶ月前まで教室の私の斜め後ろの席でちょくちょく見掛けた表情だ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加