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「あの日、功夫を終えて鳳凰橋を渡って帰る途中、あんまりにも暑くて倒れたんだ」
「それは」
私が二胡の教室に行く日は進も功夫の塾に通う日だ。
いつもなら互いの習い事を終えて帰途に就き、途中の太平洋書店前の交叉点で合流して、そこから一緒に帰っていた。
きちんと約束していたわけではないが、それが習慣になっていた。
それがあの日の夕方だけいつもの交叉点に彼は現れなかった。
最初は功夫が長引いたのかと思い、しばらく待っていたが、あまりの暑さに耐えかねて冷房の効いた書店に入った。
そこで今、流行の「異世界東亞来訪記」を立ち読みして、これで夏期休暇の読書感想文を書こうと思って買った。
店を出る頃には道はだいぶ暗くなっていた。きっと進は私が立ち読みしている間に帰ってしまっただろうと思いながら、二胡と買ったばかりの本を抱えて家路を急いでいると、夕飯の買い物籠を提げたおばさんに鉢合わせした。
――あら、うちの子と一緒じゃなかったの?
互いに驚いた顔を見合わせた。
夜になっても彼は戻らず、「男子高中生行方不明事件」として新聞でも電視でも報道されたのだった。
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