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「日本街に連れて行かれたの?」
極東線に乗って半時間程のその街なら、住人は概して洋装で、言葉も通じなくはないが単語はかなり違う。
「いや、日本街ではなくて『日本』という別世界の國なんだ。父さんも母さんも君も皆、いる。俺は『ススム』、君は『カオリ』、秀雄は『ヒデオ』みたいに同じ字でも違う読み方で呼ばれていた」
進はまるで信じられないものでも目にしたようにこちらを見詰める。
そうなると、新しく買った白芙蓉の花簪を挿して仕立てたばかりの朱鷺色の旗袍(この夏期休暇にまた胸とお尻がきつくなったので新たに作ったのだ)を纏った自分が酷く場違いに思えてきた。
白檀に醒めた鉄観音の交ざった匂いが私たちの間を漂っていく。
電視からは新たにゆったりした琴の音色が流れてきた。
いつもの天気預報の曲だ。
明日はまた学校だが、進は来るだろうか。
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