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「こんにちは」
ざわめく胸を抱えた西瓜で押さえつけて私は精一杯笑顔を作る。
てっきりおばさんが出迎えてくれると思っていたのに、いきなり進本人との顔合わせだ。
「ああ」
二ヶ月振りに目にした相手は頭半分ほど背が伸びており、洗い晒した紺地の長袍の肩も背に比例して広くなっている。
治りかけのニキビの残る頬の線にも子供らしい丸みが消え、大人の鋭さが現れ始めていた。
「カオリ、いや、香珊か」
耳にする声も一段階低くなった。
「うちで西瓜、沢山貰ったから」
“カオリ”とは誰なのだと思いつつ、何事も無かった風な笑顔で続ける。
「良かったら、皆で食べて」
去年、届けた時にはおじさんおばさんも家にいて四人で食べたのだった。
進の背後から流れてきた微かな白檀の香りにふとそんなことを思い出す。
これはおじさんの好みで買い揃えた白檀の家具や調度品の産物で、この家にお邪魔するといつも嗅ぐ匂いだ。
「ああ」
相手も何事か思い出した風に私の抱えた暗緑色の人の頭ほどの大きさの球体を見詰めた。
「わざわざありがとう」
色褪せた紺色の衣の腕を伸ばして重たい果実を受け取る。
これはおじさんの服だと今更ながら思い当たった。
恐らく二月の間に体が大きくなり過ぎて元の服が入らなくなったのだろう。
何だか行方知れずだった二月の間に急に十歳も年を取ったように見える。
私より一月生まれるのが早いだけだからまだ十七歳と一月のはずなのに(去年までは互いの誕生祝いをしたのに今年は出来なかった)。
西瓜を抱えていた両腕に重荷がいっぺんに消えた代わりにひやりとした疲れを覚える。
「一緒に食べよう」
相手の顔にパッと見慣れた人懐こさが戻った。
「入って」
告げるが早いか長袍の背を向ける。
あ……。
私は思わず息を飲んだ。
進の小さな頭は毬栗のように後ろまで短く刈り込まれている。
「誘拐先で辮髪を切られて虐待された」という噂はやはり本当だったようだ。
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