風の便り🍃

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「風の🍃便り」 ー外の世界は、明る過ぎて嫌いだー ー深海魚のままでいたいー 時間も忘れ、あの人のことも忘れ、笑顔もその他の感情も外の世界から置き去りにし、このままでいたい。 ーでも、私はいつまでも学生ではいられない。 このまま、ずっとここ(家に)にとどまり続ける事も出来ない。 自分の時間も、誰の時間も 時間泥棒はそれこそいなくて。 皆誰にでも等しいのだから。 私「いつから、だろう?」 いつから、こんな風になったのだろう。 私が能面のような表情で、それこそ魚の瞳が濁りを覚えた感覚に陥ったのは。 遠野冬花(とうのふゆか) それが私の名前だ。 幼稚園、小学校2年頃までは よく笑い、よく泣き、ふくれっ面になるような感情がくるくる動く人間だったが、父親が転勤族で、大阪から今の神戸に移り変わり、環境が大きく変わってから知らない人間だからか、 たまたま私自身、人よりもほんの少しだけ勉強が出来て運動がほんの少しだけ出来、ほんの少しだけまた先生から一目置かれるようになってなら。 いわゆる俗に言う、世間一般のどこにでもある「虐め」が始まった。友達も1人もいなく、同学年全員からの集中攻撃に そのうち耐えられず、先生にも相談したが 先生から出た言葉が無情にも、 「私のクラスにそんな酷い事をするような クラスメイト達はいない。悪ふざけ なんだろう?」という笑顔付き。 私は怒りと憎しみと、納得がいかない気持ちに苛まされていたが、両親に心配かけないように最初は学校へ重たい足取りのまま、 出向いた。 その内に、何故私がこんな事を繰り返し、何故こんな悪循環な環境で勉強をしなければならないんだ。と考えていくと。 次第に倦怠感のようなものを覚えて いくのだ。 ーアクアリウムにいる、魚になりたいー そんなこんなで、2年目の月日が流れた。 たまたまどういうわけか、私が 平日の日中歩いていると、 肩を叩かれる。 私「え?」 振り向くと、耳にはジャラジャラなピアス、頭は強烈なピンク そして身長は170か175ぐらいだろうか。 笑顔で壁になって立ち塞がる。 ?「君、冬花ちゃんでしょ?」 私は呆然と暫くしていたが、 慌てて気を取り直し。 他人のふりをしようと努めた。 私「い、いや。。。違い、ます」 他人のふり、他人のふり… 目を露骨にそらし、歩こうとするとあえてその男は瞳を逸らさず、強引にも立ち塞がる。 ?「人と話す時は、きちんと人の目を見て話すって習わなかった?遠野冬花さん?」 ぎ、ギク! ?「あー、ごめん×2!紹介遅れた。俺は春川雪(はるかわ=ゆき)ゆきちゃんで、 いーよ♪」 いーよ?ったって。 な、なんか超面倒臭い人間と出くわしてしまった。 グググいと、目を露骨に反らしながら、手を差し出す。 私「よ、宜しく。です」 雪「うむ、宜しく。後輩ちゃん。と言っても俺より一個下なだけだけど。あ、そうそう」 無敵な笑みを讃えたままで 彼はポケットからゴソゴソと 何かを取り出す。 雪「これ、あげる。何かの役に立つと思うから、使って?」 それは、見たことのない少し 古びたけど小さなチラチラとダイアモンド やルビーが装飾されてあるものだった。 雪「俺の爺さんが言ってたけど、これをつけていたら戻りたい時代に戻って、 リセットができるらしい」 私「…まさかぁ」 雪「それのもし本当のそのまさかだったら?」 彼が小さなその装飾がついた 懐中時計を渡されると。 踵を返し、じゃあね?と私に告げられた。 重たい足取りで、のろのろと家に戻ると。 春川雪と名乗る前代未聞の人物から渡された懐中時計が少し気になった。 何やらそれには、説明書が書かれてある。 『1願いが叶うのは、2回まで』 『2過去にも未来にも望めば左右し運命を変えることが出来る』 『但し、願いが大きければ大きいほど、その代償(リスク)も大きくなる』 今の生活の何もかもを変えてしまいたい。 出来ることなら、過去へどんな時代でもいいから戻りたい。 懐中時計を強く握りしめ、深呼吸をし 強く祈り、瞼をそっと見開くと。 広がっていたその世界は、懐かしい景色。 ー私はこの景色を知っているー 若かりし母と、幼い私。 幼稚園ぐらいだろうか? 『ねぇ、ママ。大きくなったら冬、ママみたいにお料理上手になりたい』 母も随分若かった。 ブランコを揺らしながら 微笑みを絶やさず、 『そうね、冬ちゃんは賢い子だから、きっとお料理もすぐ上手になるわ』 『そうだな、きっとなれるさ』 父と母の関係がおかしくなったのは、それから4年後。 父が病気で倒れ、そこからあっという間に眠るように亡くなった。 泣き崩れる母に私は、子供ながらに寄り添って平静を装っていたが、 それから間もなくして 母の実家である島根へ行くことになった。 母はその日から、優しかった母ではなく荒んだ母に変わってしまった。 『冬のせいで、パパはお空に行って しまったの?』 この時から私は自分を責めた気がする。 私は小さな私を見つけ、 『貴方は、何も悪くないよ。きっと大丈夫だから』    と、刹那。 ?『お前誰だよ!冬ちゃんに、近づくな!』 この子、どこかで見覚えが。 生意気な口調。 右耳にピアス。 瞳の色は、少し色素が薄い ミルクチョコレート色。 『雪ちゃん!』 雪ちゃん??? 雪ちゃんと呼ばれる少年は 小さな私を後ろで護るように 小さな背中で反射的に壁を作る。 雪『何か用か?お、ば、さん』 お、おば、さん?? 私「ちょ、おばさんは失礼じゃない?」 全て思い出した。 春川雪。 雪ちゃん… お父さんが、イタリア人。 お母さんが日本人のハーフだった男の子。 先生や大人が嫌いだったようだけど、 私だけにはどういう訳か妙に優しかった。 と、言ってもそれはこの頃の 幼い私のみだったけど。 雪『うっせ!俺や冬からしたら、おばさんはおばさんやんけ!』 ほんと、相変わらずこの頃からクソ生意気な坊主だったんだなぁ。 冬『雪ちゃん、ちょっと言い過ぎだよ、 お姉さん可愛そうだよ💧』 幼い私は、さり気なく柔らかにフォローを怠らない。いい子だなぁ。 ジーンと改めてしみじみ感傷に 浸っていると。 すかさず、第二の攻撃態勢として、ジャブをお見舞いしてやると言わんばかりにファイテンポーズをチビ雪ちゃんは、とっている。 雪『全く砂糖よりも甘いんだよ、冬は』 冬『だって。お姉さん悪そうには見えないよ?』 雪『そんなやつに限って先生も言ってたやろ?知らない人に声かけられてもついていったらいけませんって』 た、確かに。 それは、一理ある。 雪『とにかく、おばさん。冬に声掛ける前に、マネージャーの俺にまず話をそこん所通して貰おうか?』 ま、マネージャーって。 ツッコミどころ満載のちびっ子発言に対して、頭を悩ませていたものの。 雪『何か悩みありそうやけ、話ぐらいは聴いてやってもしゃあないから、ええよ。但し、1時間につき5000からな?』 冬『雪ちゃん!!』   ハハハ。 何とも言えず呆れ笑いする 私に対し。 冬『ごめんなさい、雪ちゃん普段は こんな人じゃないの。許して?』 とおずおず私に小さな手を差し出す。 雪『はい、冬の手をとったので、10000万円に値上がりやで?』 え?マジで? 冬『ちょっと雪ちゃん!』 雪『嘘だよ、おばさん、ほんまに底なしの 阿呆やな』 ベェーっと舌を出す、このちびっ子 生意気な雪少年に当時の私がすかさず フォローを忘れない。 雪『あんた訳ありやな。それもここの、人間じゃなさそうや』  ギク! 雪『俺な、手を出してもらった時と、 あんたの周りのオーラー見て 大体漠然とやけど、見えてたから。 あんたは、間違いなくここ(この島根人)の人間じゃない。おばさん、どこからやってきてん。あ、俺がずっと大阪弁なのは、父親が元々大阪人やからやで?』 ーいや、そんなの今実にどうでもいいしー しかしもカカシ。 小学低学年とは思えない洞察力とその発言に、身震いと感嘆しか覚える他ならない。 私『信じないかも知れないけど、私は未来からなんだ。』 雪『…さよか。何となく分かってたわ。おばさんの瞳と、冬の瞳とが何となく似てたから、もしかしたらって思うとったし』 す、凄い観察力だ。 ほんとに、小学生の発言とは思えない 話し方だ。 名探偵コ〇ンもびっくりだ。 雪『話せよ。初回は無料でええさかい』 小学生に慰められる高校生の立場って一体。 でも何故か安心したら、あとからあとから噴水のように溢れ出して、とまらなくなる。 自分は未来からこの過去にやってきたこと、そして冬の未来の姿だと言う事。 中学から本格的に虐められていたということ。 高校になり、引きこもりになった事。 友達が欲しいのに友達もいなく、彼氏も出来ず、社会人にこれからなるのに、このままの人生で悩んでること。 言葉を吐き出したと同時に、 涙も溢れ出して止まらなくなっていた。 小さな少年、雪ちゃんは。 ただ黙って、小さな私と一緒に 慰めるでもなく言葉で大丈夫か というのでもなく側にいてくれた。 そのうえで、私が話を終えてから。 雪『…そうや!あんさんに、 渡さなあかんものがあったんや。けど… 果たしていいものになるか、わからへんけど、ある人にこの手紙を預かってる。 ここでは多分昨日になるけど、 あんたのいる未来なら この手紙は1年か2年前になるっ てその人は言っとった』 私に、手紙?? 白い無機質な封筒に書いてある。 『冬花へ。 僕は、君を変わらず想っているけど、 君は僕の想いをいつしか存在と 共に忘れてしまうだろう。 でも僕の知っている君は、 とても勇敢で、聡明で誰よりも 優美でしなやかに、生きる事が 出来る人だ。』 『僕はもしかしたら、君を失う事になるかも知れないけれど、未来でもう一度君に出逢えるなら、もう一度君の想いを伝えたい』 『ti amo(愛してる)』 チビ雪ちゃんが、ぶっきらぼうに 頭をカリカリと書きながら。 雪『俺は、そのあんちゃんが 何を言いたいのか、 ようわからんかったけど、 凄い焦ってるようやったさけ、 きっと大事なことに思えたで』 私『…』 そうだ。 一連のことを走馬灯のように思い出した。 行かなきゃ! 未来に行かなきゃ! 私の時代…ううん、そのもう一つ先の未来でもいい。 行かなきゃ! きっと後悔する! 冬『お姉さん…うまくいえないけど、頑張ってください♪』 ポンと背中を押され、私は じわっと涙がまた出そうになる。 雪『今度は後悔するなよ、もう一人の、冬。そんでここにもう来るんやないで』 私「あ、有難う!」 この先何が待ってるか、私はとても不安と 怖さで一杯だったけど、それ以上に小さい 雪ちゃんともう一人の私から、 勇気と強さと元気をもらった。 だからこそ、生きて行ける気がした。 目が覚めたら… 私は病室にいたらしい。 私自身は昨日ぐらいのように しか思えなかったけど、 母は心配をしていた。 あの世界では、母親の記憶しかなかったけど、この世界には父もどういう訳かいてたらしい。死んだと思った筈の父親が 目が覚めたら、ピンピン生きていたなんて。 何か、胸のざわめきをほんの少し覚えた 私をよそに、心配そうに両親は 私を抱きしめていた。どうやら 植物状態に近い状態だったようだ。 医者「奇跡です!」 母「冬ちゃん!?冬ちゃんなのね?」 父「冬花!」 瞼を静かにゆっくりと見開き、 天を仰ぐと。 亡くなっていたと思っていた父親が 何故か生きていた。 どうやら少し時代の状況が 変わっていたようだ。 私「こ…こは」 母と父が心配そうな顔つきで 大阪の太陽総合病院だと言っていた。 そして私自身、丸2年も植物状態で 眠っていたという。 更に状況確認として聞くと、 私自身、事故に2年前出くわしていた らしく、昏睡状態になり この病院でずっとお世話になっていた ようだ。 私自身としては過去に行ったのが本当に 昨日のことなのにー。 記憶を確かめようと、首に下げていた アンティーク風のペンダントがあるかどうか、確認する。 ー確かに、あるー ー手紙もー そして、はっと思い出した事を 繋ぎ止めるかのように、のべつくまなしに、息継ぎも忘れるかのマシンガントークに 徹する。 私「雪ちゃん、そうだ!雪ちゃんは?」 雪ちゃん?と両親が聞き返したので、慌ててそのまま呼吸を忘れそうになるぐらい 続けざまに 会話を休むことなく、言葉を紡ぐ。 私「春川雪ちゃんだよ!昔近所にいたでしょ、島根に住んでいた時近所で一緒だった」 そうー。 いつだって一緒だった。 そして、彼は大阪にも来ていて 私にほんの一瞬だけ、あの日 声をかけて、ペンダントと この手紙をくれたんだ。 父と母は春川雪の存在を 私の話から耳にして顔が曇る。 母「何言ってるの?雪ちゃんは、2年前にあんたと一緒に、出かけた時に交通事故にあったのよ」 父「辛うじて彼は生きていた時、彼はあんたに腎臓を渡すと言っていたんだよ。彼はその後亡くなる前に、彼に言われたんだ。もし、彼女が生き返ったら、僕のことは全て伏せておいて欲しいって」 ーそんな!ー そんな、結末望んでない! それなら私は生き返ることなんて、生きることなんて望まなかった。 ー嘘でしょ!ー 嘘だと言って! 雪ちゃん。 彼の最後の手紙の意味がようやく、分かったこの結末。 私はショックで思わず言葉が出てこない。 何度も何度も、言葉を出そうとするが、その答えがこれだなんて私は望まなかったから。 それなら、生き帰りたくなかった! 苦虫を潰したかのように、手紙をぐしゃりと手で歪みを作る。 私「信じられない…」 過去へ行けば、未来は変わるが なにかの代償(リスク)を伴う。 以前言われた言葉はこれだったなんて、信じたくはない。 絶望の淵に立たされるのは、 まさにこれのことだったんだ。 雪ちゃんは、まさかこのことについて理解していたからこそ、過去へ私が行くという 予想も付いていたから、あの手紙を書いていたんだ。 何もかも知ったうえで、死ぬ直前に書いて 私に宛てた手紙。 そして、あのピンク頭の雪ちゃんと出逢った頃の私は、過去へ行った頃と同じ日だと私自身は思っていたけど、あの彼は数年先の未来から私が後悔しない道を選ぶために、 わざわざ彼自身未来から過去へ飛んで、 私の心を救ってくれてた最初で 最後のエールと、過去へ飛ぶという予測を 立てた、最初で最後のエールをあの頃の チビ雪ちゃんに 託すための置き土産だったんだ。 ーti amo(愛してる)ー ーper sempre(ずっと)ー ーだから、生きろー 必ずまた、僕等は出逢えるから。 僕の心は君とともにある。 私「雪ちゃん…」 私は、泣き崩れる他なかった。 それから何日泣いただろうか。 そこから先のことは覚えてない。 覚えてはいないが、ただ一つ変わったのは私自身が再び学校へ通うことが出来、 無事に卒業し 言いたいこともハッキリ言えるようになり、また護身術を身につけるようになったお陰で 虐められていた側が立場逆転して、相手が虎から犬のポチにさえ見えたので、可愛くさえ感じるようになったことぐらい。 大学も無事進学し、私はアニメーションの専門学校へ通うようになった。声優の勉強をするために。 4月。 桜の季節に、ポンと叩かれる。 薄いブラウンの瞳。 吸い込まれるビー玉みたいに 綺麗だった。 ?「Buongiorno(お早うございます)」 雪ちゃんに、そっくりな人。 でも、イタリア語での挨拶。 私「雪ちゃん?」 ?「ゆき、ちゃん???」 私「あ、ごめんなさい。知り合いに似ていて」 罰が悪そうに、作り笑いすると。 彼もつられ笑いをしながら。 ?「僕はLeonardoと言います。 Leonardo=nevicare (レオナルド=ネビカレ)です。 ネビカレは、日本語でユキ。 母が日本人で、ユキが好きだったから だそうです」 雪ちゃんはいないのに、どうしてこの人を 見ると他人とは思えないんだろうー。 私「私はとおの、とおのふゆか、 遠野冬花です」 目がお互い話せなかった。 ドキドキが何故か収まらなくて。 初対面にも関わらず、 話したくなった。 Leonardoは、レオかネビと呼んで下さい。とハニカミながら 穏やかに話す。 私「私、貴方と同じような雰囲気の人を 知ってるの」 レオ「不思議です。僕も、何故か貴方と話すと、懐かしくとても逢いたい気持ちがとても強くなります。ハジメマシテ、なのに」 私「どこかへ行くところですか?」 レオ「僕は今日からアニメーションの この学校へ行くところデス」 わ!私も偶然と言うと、彼も驚く。 同じしかも声優科だった。 天国の雪ちゃん… 見てくれていますか? 私はようやく、一歩踏み出すことが 出来そうです。 もしかしたら、彼は貴方の 生まれ変わりだと思える人と 出逢ってしまったからだと 思える人が側にいるから 信じることが出来たから かも知れません。 神様は、辛く残酷な試練と。 とても大切なギフト🎁を私にくれたからー。 ごめんなさい。 それと、有難う。 前へ、進めー。 (完)
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