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 一通り報告して、総代が気になったのはやはり灰色スーツの男の退場だ。 「そうですか、彼は退られましたか。しかし、躰から取り出されたというその珠…常世の珠、と言ってたそうですね」 「ヒデさんも同じ事言ってたな」 「その言葉、約百年前に出現した前回の教団には無かった…少なくとも記録にはありません。奴らは百年前から滅びてなかった、というのもヒデさんの言葉でしたね。この百年で開発された、彼らの技術と言うようなものでしょうか」 「怪異同士を喰い合わせて、肥え太った奴からその珠を取り出している、そんな事をやってたように見えたよ」  ナベちゃんが淡々と言った。 「御所の先代も教団の仲間だった、というのは、実は私も薄々思っていました。あの男を御所屋敷に招き入れたのは、他でもない先代でしたから。ただ、何か理由があるはずだと思っていました。その理由と思われる先代の大切な方というのも、どなたなのか、今無事なのかすらわかりません。せめてそれだけでも確認したいのですが…」  御所総代は首を振った。 「実は、先代が彼らの仲間だったらしいことはまだ、本部に報告していません。そこにあったはずの『事情』が判明しないうちは、総代家間の権力争いの種でしかないと判断しました」  また事情聴取で明らかになった問題もあった。  あの怪異先輩は、間違いなく土佐峰流だったし、それは彰志も証言した。ナベちゃんはそいつの顔を見た。  そこで大勢の――かなり見知った顔もいて、ここ十年程の鴉隊所属御術使と見当が付く――顔写真だけを見せられたが、該当する男は一人もいなかった。 「年は三十~四十くらいだった。それも勘案して顔写真見せてもらったけど、あいつと同じ顔はいなかったんだよな」 「それで、八咫部隊長の反応はどうでした?」 「それなんだよ。何にも言わねえんだよあいつ。いつもなら嘘つくんじゃねえってメチャクチャ圧掛けてくるってのにさ。俺はそれが不気味で、気が気じゃなかったんだけど」 「仁神君はどうです?あれから、中の鬼は何か言ってますか?」 「ううん、一度俺が主導権渡しちゃダメだって思ってから、何にも」 「そうですか。そこは様子見しかありませんね…」  御所総代はしばらく、考え込んでいた。 「思ったんですが、やはりその元鴉と見られる方の正体を探るのが一番近道でしょうね。他は退れたのも含めて手掛かりが全くありませんが、そこなら私達でも手が届きそうです」 「でも、どうする?」 「本部でデータを見せてもらいます。渡邊さんが今日見せられた写真はおそらく、鴉隊詰所にある、現役と近年辞めた方のデータでしょう。もっと高齢の方の現役時代を見るべきです。彼らが常世の神を標榜しているのなら、若返りの可能性も視野に入ります」 「なるほど」 「本来なら八咫部隊長に進言すべきなのでしょうが…今のあの方に聞く耳は無いでしょうね。聞いていただけたとして、結果は教えてもらえないでしょう」 「で、それって見せてもらえるの?」 「正攻法では無理ですね」  潤の質問に平然と答える御所総代に、彰志は嫌な予感しかなかった。 「本部のデータを内緒で見ます」 「一応確認しとくが、合法の範囲か?」 「私が見る分には総代無罪ですが、渡邊さんに見ていただく必要があります。何、バレなければいいのです。いざとなれば私が責任を取ります」 「つまりアウトな。でも総代、まだ総代会に入れてねえだろ。また揉めたら大変だぞ」 「だからバレない方向で行きます」  この会話を、ナベちゃんは唖然として聞いていた。  彼も今後、この総代に世話になるだろうから、正体を知るのはまあ良いことだ。 「意外に簡単ですよ。皆さん、ご協力お願いいたします」
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