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9 怪異たちの事情
女は、机の上の薄く黄緑色がかった、鈍く光る珠を見つめた。
大小の玉がいくつかある。
指先で転がすと、大きいものが小さいものに触れ、ぽっと取り込んだ。
こういうのを昔、見たことがある。
体温計を割ると、中から銀色の玉が出てくる。それを指先でつつくと、ちょうどこんなように玉がくっつく。
それを病室の机で飽きもせず眺めていたら、看護婦がやってきて女を酷く𠮟りつけた。
あの看護婦の普段の顔なんて覚えていない。
覚えているのは、その女の首を梁にロープで吊るしてやったときの、赤紫色に膨らんだあの……
「俺はあいつを出してやれと言ったはずだ」
話しかけられて、思い出はそこで途切れた。
振り向くと、背の高い男が立っていた。
その立ち姿だけで威圧され、女は怯んだ。
「あいつが一番情報を握っていた。いなくてはまだどうしようもない」
むかついたが、文句を言いかけてやめた。こいつは強すぎる。逆らうことは出来ない。
「今出すところよ」
女は刺々しく言い返して、自らの掌から―― なるべく小さく―― 珠を出し、放り投げた。
床にとん、と落ち、そこに丸顔の中年の男が現れた。灰色ずくめの、型は古いが仕立ての良いスーツを身に着けている。
「この、俺を取り込みやがっ」
「やめろ!」
背の高い男が制すると、男は素直にやめた。
だが灰色男は、威厳をかき集めると、精一杯上からものを言う。
「俺がいなくては、お前たちもどうにもならないということだろう。何しろ百年前から準備してきたのはこの俺だ。お前たちはその過程にしか触れていないからな」
「お前の中に湧介がいなかったのはどういうことだ」
女は自分の聞きたいことだけを聞いた。
灰色男は、顔を顰めて舌打ちした。
「俺があいつを獲ったと思ったら、中に入っていたのは鬼妖から取り出したばかりの珠だ。後でわかったが、あいつは俺が盗って来た、御術使共の鬼封じの壺を二つ三つ割ってやがった。そいつらから出した珠で生きていたらしい」
「それでも、湧介の中にあったのなら、それが湧介じゃないのか?」
「入れてから五日も経っていなかったはずだ。それではあいつにならない」
「じゃ湧介はどこ?」
「俺が知るか」
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