1 出会い

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1 出会い

 風の冷たい、どこまでも晴れた日だった。  白雪を頂く富士山のてっぺんから裾野の隅々まで、よく見えるような。  そんな霊峰富嶽南西麓(れいほうふがくなんせいろく)の一角で、御術使(おんじゅつし)伊東彰志(いとうしょうじ)は、これはちょっとダメかもしれないと半分覚悟していた。  珍しく彰志のところへ本部から連絡が入ったのは、ほんの十分ほど前のことだ。 『怪異が出ます、ちょっと強いです。鴉隊出ましたが、今近いところにいるのが伊東さんだけです。足止めお願いします』  そんな訳で来てみたところ、遥か遠くから視認しただけで拳が飛んできた。  間一髪躱せたのは我ながらお手柄だ。  奴の周囲に封じを張る隙も無く、続けて放たれた妖術は全て受けざるを得なかった。これを避けたら、娑婆に被害が出てしまう。  あっという間に防御の呪符も尽き、丸裸同然だ。 「ちょっとどころじゃねえだろ、見手(みて)は何してたんだ!」 『鴉到着まであと五分です、とにかく足止めお願いします!』  本部のオペはインカム越しに無茶苦茶を言ってきた。  普段もっと小粒の怪異を相手にしているフリーの中途御術使たった一人に、出来ることと出来ないことがあるだろう。  しょうがねえ、使うか。  彰志は奥の手を使うことにした。  だが、この『闇玉マイナスワン(言っておくが命名者は俺じゃねえ!)』は御禁制品だ。  所持すら上にはバレたくない代物だというのに、こんな本部案件で使えば、後がとてつもなく面倒なことになるだろう。  と言ってこのままでは、鴉到着を待たずに、その『後』すら無くなる。  幸いここは市街地からは外れも外れで、やけに立派な道路と杉林と杉林と杉林、そんなロケーションだ。遠くに人家と学校らしき建物が見えるが、娑婆に被害は…まあ、出ないはずだ。  彰志は空に上がり、獲物で背まで伸びた髪を一房切り、放った。  十数体の分身を造る。  それを見た奴の顔が歪んだ。知恵のある怪異、つまりこいつは相当の『鬼妖』だ。  その表情が意味する『弱ェ奴がいくら増えたって弱ェんだよ』という(あざけ)りを正確に読み取り、彰志は気分を害した。  わかってるわクソが。  十数名の彰志たちが鬼の周囲に降り立った。  が、一瞬で五名に減った。  その五名も次の瞬間鬼に薙ぎ倒され、奴が一歩、彰志本体に向かって足を踏み出した。  バァン。  五名の彰志が身を挺して地に貼った呪符が鬼の周囲で爆発し、鬼がよろけた。  奴の足元には既に、手榴弾様のモノが正確に転がっている。  よし、踏んだ。  青白い閃光、空高く一閃。  鼓膜が破れるかのような爆音、一発。  そして彰志本体のところまで、火薬の匂いが昇ってきた。
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