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その後がちょっと、大変だった。
彰志の予想した通り、鴉隊は案の定やって来たし、案の定八咫烏が一等最初に現着した。
ナベちゃんは逃げ損ね、御所家所属と一緒に留め置かれた。
潤は元に戻ってたし、鬼の意識が表に出たことは黙ってることにした。
地下室の様子は正に阿鼻叫喚で、連中は孵化した後の人の骸を放りっぱなしにしていたらしい。普通は全部喰っちまうんだが。
鴉のうち若いのが何人か、青い顔で口を押えて林の中に走っていった。
「潤は平気か?」
平気そうな顔をしてたが、一応彰志は聞いてみた。
「俺は平気じゃないんだけどさ」
潤は、困惑を誤魔化すように苦笑いを浮かべ、声を潜めて答えた。
「俺の半分は『何だこの程度』って思ってんだよね」
戦果は、灰色スーツ、ヤクザの外道、その他怪異、以上。
女と怪異先輩は、退れた痕跡が見当たらなかった。
そのうち総代から彰志のところへ連絡が来て、状況を説明すると、今日起きたことをなるべく正確に鴉隊に報告するよう指示された。彰志が、ナベちゃんも穏便に済むよう頼むと、それはお任せ下さいと返って来た。
そして、三人とも本部で丸一日油を搾られた。
無所属だった頃は詰所の留置場にお泊りも当たり前だったが、さすがに所属、日が暮れてから帰してもらえる。というか、帰っていいと聞いた時、彰志は思わず耳を疑ってしまったくらいだった。
総代はナベちゃんのことも忘れておらず口添えしてくれたようで、何とか三人で帰路に着けた。
総代から、ナベちゃんも一緒に夕食をというので、三人で屋敷に帰還する。
「ただいま」
「ただいまー」
「こんばんは、お邪魔します」
「皆さん、お疲れ様です」
どっちかというと精神的に疲弊して玄関に入ると、出迎えたのが月出だった。
は?
月出は、鴉の黒ジャケットは脱いでいて、腕まくりした白シャツの上にエプロンをしている。
彰志はここで、腕まくりした白シャツにエプロンてのが何故こんなに破壊力があるのだろうと一瞬考えてしまったが、我に返った。いやいや、全く別にどうということも無い、冷静に考えて。
「あれ、月出さんどうしてここにいるの?」
潤の素直な質問に、月出が答えた。
「隊長の指示で、皆さんがお留守の間、私が御所総代に付いてました。昨日、御所総代を狙って襲われたと報告があったでしょう?」
「へえ、じゃ月出さんが総代のこと守ってくれてたんだね」
「守るっていうより、見張ってろと言われてたのだけど。ただ居るだけでは申し訳無くって、家事のお手伝いしてたわ」
月出は苦笑して答えた。
潤と月出が会話している脇を、彰志はどっと疲れた気持ちですり抜けた。
そう、疲れてるんだ俺。
月出はすぐ帰ったし、夕食はすぐ始まった。
そして食後、しばらくして、総代が切り出した。
「皆さんお疲れだとは思いますが、今日起こったことをご報告お願いいたします」
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