7 御術師総庁に侵入せよ

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7 御術師総庁に侵入せよ

 本部の、入ってはいけない場所に忍び込むのが簡単なんて話は、無い。  当然だが至る所に封じがしてあり、あらかじめ想定された、入って良い人間以外は弾く仕組みだ。セキュリティとして完璧とも言える。  そう、半年前、御所総代が業界に入るまでは。  御所総代はその日、本部の受付で総庁のお偉いさんに面会したいと告げ、返事も待たずに上階へと向かう。  弱小だろうと総代は総代、アポなしで押しかけるくらいは出来る。  会える会えないは今日この時は問題では無く、単に本部内をうろつく口実だ。  総代は三階の階段脇、資料室に入り込んだ。   『私は封じを通り抜けられるんですね。最初は私、封じというものがということに気が付かなくて、本部のあちこちに入り込んで、文字通りよくつまみ出されました』   総代は平然と、業界の常識を知っている彰志とナベちゃんにとって、(にわか)には信じられない話をした。 『通り抜けるので、通った後は封じは元通りです』  そういうことを繰り返して御所総代がすぐ気付いたのが、本部のセキュリティの甘さだった。 『本部はセキュリティを封じや見手に頼り切りなので、監視カメラどころか鍵すら無いところばかりです。私の姿は肉眼、またはカメラや映像には映るのですが、見手には見られません』 『あ、じゃあ丁度俺と逆なんだ』  ナベちゃんは影に入れば見られやしないが、封じには引っかかるし見手には見られる。 『でもナベちゃんだって、滅多に見手には見つからないだろ』 『封じには百パー引っかかるよ、いるって気付かれたら見られるし。そこ引っかからないって羨ましいなあ』 『でも私も、よく見つかって怒られましたけどね』  八咫烏は本部に鍵や監視カメラの設置を要求したらしいが、ほぼゼロの現状から導入するのは金が掛かりすぎる。  噂では上から『何かあったら御所総代を疑えばいいじゃないか』と言われて却下され、滅茶苦茶怒ってたらしい。 『詰所出禁になるわけだな』  彰志は初めて御所総代に出会った時、鴉たちが大騒ぎしていたことを思い出した。 『私が本部にいるときには見張りをつけるという話も持ち上がりましたが、私に枷を嵌めることは総代に枷を嵌める前例となりますと申し上げたところ、そういう話はパタッと止みました』 『本当に口だけは達者だな』  皮肉とか抜きで、そこは尊敬するわ。 『私も総代会入会を目標にしてからは、あまり揉めない方向でいこうと、やたらと侵入するのを止めました。そのうち鍵もカメラも導入されるかもしれませんが、少なくとも今、本部は入り放題なんですよ』 『うーん、いや、上手く言えないんだけどさ。色々おかしくない?』  ナベちゃんの感想に、彰志は賛成だ。  そんな訳で、総代の影にはナベちゃんが入っている。  総代は資料室の窓を少し開けると、そこに呪符をはさんでまた閉め、部屋を出た。これで帰りのルートを確保する。  ナベちゃんは資料室内の影に移り、御所総代は部屋を出た。戸が閉まり、封じは元通りだ。  資料室での行動を開始するのは、その三十分後と決めてある。  封じの効いた部屋に勝手に出入り出来るのが御所総代だけなので、誰かが入り込んだ形跡があれば、真っ先に御所総代がやったことだと思われる。  捜査に関わる資料を見たとなると、八咫烏の不興を買うだろう。御所総代は口先で有耶無耶にする自信はあるとのことだったが、今は次の総代会義まで、なるべく揉め事を起こしたくないという事情もある。  なのでアリバイ作りのため、総代は鴉隊詰所入口から見えるような位置にある、中央通路のベンチに潤と一緒に座っている。  彰志は警戒の為に…… というか、流石に一人だと心細いというナベちゃんの心情に応えて、本部建物の外、資料室の窓周辺に潜んだ。
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