7 御術師総庁に侵入せよ

2/9
前へ
/135ページ
次へ
『最大の関門は八咫部隊長です』  作戦会議で、総代はそう断じた。 『やっぱそこか』 『だよなあ』  御所総代の言葉に、彰志とナベちゃんが顔を顰めた。 『何であの方、あんなに勘が鋭いんですかね?』 『知らねえ。昔からだよあいつ』 『中途からは、超能力があるって評判だからな』 『え、御術使ってもう超能力者みたいなもんじゃん』  潤に、どうでもいいところを突っ込まれた。 『当日あの方が本部にいたら、結構な確率で勘づかれます。ですが幸い、私は今、向こう一週間の八咫部隊長の予定を把握しています』  見合いの日程について、八咫部の爺ィは気にするなと言ったが、だからって本当に奴の予定を無視して押しかければ、滅茶苦茶機嫌が悪くなるだろう。  こっちとしてもそれでは困るので、総代は事前に、八咫烏の予定を八咫部家から聞き出していた。  と言っても、八咫部家から聞き出せるのは「仕事で早くなる・遅くなる」「在宅」くらいなものだ。  それを元に、総代は本部内の協力者―― つまり本部の、誰か知らんが女癖悪過ぎて総代に弱み握られてる奴―― から、特に仕事で遅くなる日について、詳しい内容を素早く聞き出した。  ちなみにナベちゃんは、見合いの件にしても本部の協力者にしても、事情を知って目を点にしていた。 『八咫烏って言や、前に総代会で、八咫部の爺ィが賛成した総代の入会に、反対したんだろ? いくら中途アレルギーったって、親父の御付で総代会義出てるってのに親父に反対って、あいつ何がしたいんだ?』  彰志がふと思い出した疑問に、総代が答えた。 『八咫部総代は息子自慢半分で隊長に総代会議の御付をさせていますが、あの時はさすがに隊長が、中途の私の総代会入会を見過ごせなかった、そんなところじゃないですか』 『へえ、あいつ、息子自慢で御付やらされてんの。親父には結構素直に従ってんのな』 『見合いだって、爺ィは八咫烏に言うこと聞かせる気満々だったぜ』 『いえ、隊長は、本当は御父上を大変に煙たがってます。ただ、あの方は将来的に目指すところがありまして、そのため業界内での立場を固める必要があります。だから御父上を、今は無下には出来ないんですよ』 『え、あいつの目指すことって?』 『業界から中途一掃とか?』 『それもあるとは思いますが』 『あるのかよ』 『一言でいうと、業界の改革ですね。今は総代の権力が強すぎます。私もご本人からはっきり聞いたわけではありませんが、総代及び総代会の権限を弱めて、総庁の決まり事で業界が運営されるべきと、こういうご意見のようです』 『…… それは正論かもな』 『へえ、あいつも結構考えてんのね』  ナベちゃんですら、ちょっと感心していた。 『私も、総代が権力を無駄に持ちすぎているという点では、隊長と同意見です。そして現状に真っ向から反旗を翻しても、どうにもならないというのもまた事実。だからこそ私も、総代会入会は是非とも成し遂げなくてはなりません』 『じゃ、今こんなムリして大丈夫?』  潤が冷静に突っ込んだ。 『こちらもやらなくてはならないことです。次の総代会義までに、常世教団について一歩も二歩も迫らなくてはなりません。同時に私の総代会入会も成功させます』  そう言い切る御所総代に、彰志は少し違和感を覚えた。 『常世教団だってそりゃ、放っとけないのは分かるけどよ……』  普通に考えて、総代会入会が最優先事項だとは思う。そのためにあんだけ嫌がっている見合いも、しなくちゃならんわけだ。  だったら、潤の懸念通り、入会が決まるまで大人しくしてる方がいいに決まってる。  総代は、無理して二兎を追っているような。  彰志の疑問と困惑の視線をどう受け取ったか、表情が狐面の向こうで読めないところが、御所総代の狡いところだ。 『とにかく、そのようにします』  御所総代はまた、そう言い切るだけだった。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加