7 御術師総庁に侵入せよ

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 静かな資料室で、圭一(ナベちゃん)は姿を現し、パソコンに向かった。  打ち合わせ通り、本部内の協力者が本体を立ち上げ、使える状態にしてくれている。  欲しい資料の格納場所も教えてもらっていたため、すぐ見つかった。確かに御所総代が最初に言った通り、この作戦は意外と簡単かもしれない。  ここはこないだ見たより古い記録の保管場所だった。一応その協力者とやらに御所総代を通じて、ここ以外は見ないよう釘を刺されている。  普段の圭一なら無視して情報を漁るところだが、御所総代の顔を立てて、それはしないと約束した。  新しい方から遡っていくと、やがて、ファイルの中身が書類をスキャンしたものに変わった。紙で管理していた時代の記録だとわかった。  てか、結構最近まで紙で管理してたのな。  ひとつ圭一は、気になることがある。こないだ『見せられた中には怪異先輩がいない』と言ったあの時、八咫烏が何も言わなかったことだった。  見せたリストに奴がいないことを最初から知っていた…いや、八咫烏はもう、あの怪異先輩が誰かを知っているのかもしれない。常世教団について、鴉隊は捜査を極秘に継続中だとしたら、なおさらだろう。  では何故俺にいちいち面通しさせたのかって話だが。  一番面倒臭い可能性は、どこかの誰かに、怪異先輩のことをもう知ってると思われたくなくて、そいつに向けて『知らないから捜査してます』とポーズをとっていたってことだ。  つまり、本部に裏切り者がいる可能性が…… うーん、考え過ぎかな。  いずれにしても、仮に今日怪異先輩の正体がわかったとして、下手に動くと、鴉隊の動きを邪魔することになる。  それがいいのか、悪いのか。  まあ、あまり考えないようにしようと圭一は思った。  そういうことは、あの矢鱈と肝の据わった御所総代が考えることだ。  俺は任されたことをやりゃいい。集中しよう。  圭一は作業を続けた。  資料室の窓の外の木の枝の上で、彰志は静かに座っていた。警戒範囲は以前よりはるかに広がり、彰志には建物内の人間の数だけでなく何をしているかまで、一人一人を精細に把握できた。  ただ、あまり神経質に用心する事もなさそうだ。  資料室に用のありそうな動きをする人間は、今のところいない。  そして三階は無人だった。お偉いさんは、少し前まで何人かいたが、全員出払った。  八咫烏も一日外出予定とのことで、安心だ。  たださっき、一瞬だけ、何かのエネルギーというか、そういうものが向こうの方で『出た』気がした。  何があった? もし大事なら、この本部ですぐ動きがあるはずだ。  だが、本部内は平穏だった。  なら、いいか。  本部でも、建物の外は中ほど警戒されていない。  蛇の道は蛇と言う程でもないが、フリーなら誰でも知ってる、本部敷地への出入りを気付かれないルートがいくつかある。  ナベちゃんの仕事が終わったら、そこを通って二人で一旦本部の敷地の外に出る。そして何食わぬ顔で外から来て、鴉隊詰所前の総代と潤に合流する。  こんな回りくどい事しなくても、もっと簡単に出来たかもしれねえな。  この時は、彰志はそう考えていた。 「伊東ちゃん、伊東ちゃん」  どこからか、ナベちゃんの声がした。影から呼びかけている。  気付くと、もう一時間近く経過していた。 「あのさ、見つからねえのよ」 「え?」  彰志は眉根を寄せた。 「鴉じゃねえってあると思う?」 「いや…… トサミネは鴉、間違いねえよ」  本家が剣技を一族にしか伝承していないため、大先生は遠慮して鴉だけに伝えていると、彰志は聞いている。  もし大先生が広く業界に伝授したら、そっちが本流になりかねないからだと。 「ちょっと時間かかり過ぎちゃってるよね」  ナベちゃんは呑気な物言いに、焦りを滲ませている。 「落ち着いて、もうちょっと見てくれ。俺の警戒してる範囲なら、まだ異常なしだ」 「オッケ、やってみる」  てことは、総代と潤は一時間も詰所前のベンチに座ってるのか。  何やってんだって思われるしかねえな……  彰志のこの時の心配は、半分外れ、半分当たった。  御所総代と潤は、この一時間、ただ詰所前のベンチに座っていたわけではなかった。  何故なら、周囲から『何やってんだ』と思われるしかない事態に巻き込まれていたからだ。
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