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二人が戻ってくるのを待つ間、潤と総代は、中央通路のベンチに座っていることになっている。
鴉隊詰所から見える場所だった。通り掛かる人が、よくこっちをチラ見して通り過ぎていく。
「あ、また見て来た」
「仕方ないですね。私と仁神君じゃ、業界の珍獣みたいなもんですよ」
そう言われると、潤はちょっと不満だ。
見た目だけなら、俺は普通だ。全身を覆って狐面をいつもつけてる総代のが、よっぽど目立つ。
てか、総代って、夏どうするつもりなんだろ。我慢?
ちょっと前まであんなに寒かったのに、今日は風も無くて、この時期にしては暖かい日だった。
中央通路は桜並木になっていると、今日気付いた。ここは桜が咲いたら綺麗だろうなと、潤は思った。
総代と、今日は昼ご飯どうしようかとか、そんなどうでもいいような話をしていた時だった。
「よう」
声を掛けられた。その声は覚えてる。
潤が座ったまま見上げると、そこにいたのは宇陀川総代だ。
「これはどうも。こんにちは、宇陀川総代。今日は本部に御用ですか」
総代が立ち上がって挨拶し頭まで下げたので、潤も仕方なく立ち上がって頭を下げる。
「いいって、座ってろよ」
言いながら、宇陀川総代は辺りを見回した。
「今日はあのノッポはいねえのか」
「伊東さんなら、今お友達と会って、その方と一緒にいるんですよ」
総代が言ったのは本当の事だ。彰さんは今、ナベさんと一緒にいる。
「総代をほっぽってダチを優先するとはな。あいつは所属失格だろ、クビだ」
は? お前が言う事じゃないだろ。いきなり、何?
潤は信じられない物を見る目で宇陀川総代を見た。
「いえ別に、今何ってわけでもないので、お友達といるくらいいいんですよ」
総代だってこんな言い方、気に入るわけないのに、その場を収めようと当たり障りのないように応対している。
だから俺も、我慢しなくちゃ。
潤は奥歯を嚙み締めた。
「いいから座れよ、俺も座るからさ」
言いながら宇陀川総代は御所総代を座らせて、その隣に腰を下ろした。
え、その距離、近過ぎね?
潤は面食らった。
御所総代もそう思ったのだろう、少しよいしょと隙間を開けたら、なんとあいつは詰めて来た。
ヤバい。潤は焦る。
ところがあいつは更に、御所総代の肩に手を回してきた。
これは本当に、ヤバい。
御所総代は、動きを停止した。多分思考も停止している。
うちの総代はもう使いもんにならない。
総代は、男の人とこういう感じになるのが、何より苦手だ。
俺が何とかしなくちゃならない。けど、相手は図々しくて失礼でも、総代だ。何とか失礼にならないように切り抜けないと、大騒ぎになるかもしれない。
「あ、総代、そう言えばほら、本部に用があるって……」
言いながら潤が御所総代の手を引っ張り立たせようとしたが、宇陀川の奴が離さなかった。
あんまり引っ張って、手が取れると困る。
潤は止めるしかなかった。
「そんなことは後でいい。俺はこいつに重要な話がある」
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