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「話って何だよ」
ほぼ停止している御所総代の代わりに、潤が聞いた。
「ここでは落ち着いて話も出来ねえからよ、これからこいつをうちに連れていく」
「は? 何言ってんのお前」
焦って、思わず失礼な口をきいてしまった。
奴は睨みつけて来た。
「手前ェも躾ねえとならねえようだな。まずは口の聞き方だ。鬼呑みだからって生意気は許さねえぞ」
「だから何でお…… 宇陀川総代が、俺の上みたいなこと言うんだ…… ですか?」
俺もう、ギリギリだ。
この馬鹿は、得意気にニヤニヤしながら、またわけのわかんないことを言ってきた。
「こないだの鐵火起請で感心した。こいつはなかなか見どころがある。だから俺はこいつと組んで、総代会でもうちょっと意見を通せるようになりてえんだよ。どういう組み方するかってことだが、嫁にするのが早えと思ってな」
「はあああああああ?」
思わず叫んで、ただでさえもう注目されてるってのに、更に周りの注目を引いてしまった。
「それ本気で言ってんの?」
「物騒だな、目を赤くすんの止めろ」
そういう奴の方が、よっぽど物騒な目で睨んできた。
「止めろって。うちの総代を離せ!」
奴の警告は聞かず、目だけ光を強めながら、潤は叫んだ。
もう遠慮するのはやめだ。
と言って、まだ完全に本気を出してないと示すため、潤は目を赤く光らせてはいるが体の鬼化は止めていた。
向こうも、それなりに本気の様だ。
片手を御所総代に回したまま、もう片方の手で刀の柄に手をやる。
なるべく騒ぎを起こしたくないって、みんなであんなに作戦を考えたってのに。
けど今、本当に連れていかれたら、頭が停止している御所総代は、この目付きも性格も悪いこいつと、ホントに結婚させられちゃうかもしんない。
お見合いの話もそうだけと、総代がモテてる訳じゃないのは潤にもわかってる。
総代の地位がモテモテなんだ。そんでうちが弱小で総代が弱いから、付け入ろうとする奴がいるってことだ。
業界って、ホントこんな奴らばっかり過ぎだろ。まともな人って誰か…
そうだ、誰か、こないだの土佐弥総代みたいに、うまいこと仲裁してくれる人は?
そう思いついて潤は振り向いて辺りを見回した。
だが周囲の人間は遠巻きにこちらを見ているだけで、そういう奇特な人はいないらしい。
あいつが総代だからだ。潤は舌打ちをした。
この場を丸く収める名案なんか、俺には思いつかない。だからって力づくだと総代が危ない。
彰さんだったら、もうちょっと何とかなったかもしれないのに…
しばらく、そうやって睨み合っていた。
埒が明かねえ。
もう一段脅してみようと、腕を鬼化しようとしたその時。
「何やってんだ手前ェら」
後ろから声を掛けられて、潤は思わず振り向いた。
八咫烏が立っていた。
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