7 御術師総庁に侵入せよ

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 え?  おっさん、今日一日、いないんじゃなかった?  彰さん達、大丈夫?  前門の虎後門の狼という言葉が一瞬、潤の頭に浮かんだ。  違う、ピンチはチャンスだ!  てかこの際、もう誰でもいい! 「助けてよ! あいつ、うちの総代連れてっちゃおうとしてるんだよ!」 「はあ?」  このおっさんは、マジで何言ってんだって顔をした。 「本当なんだって、止めさせてよ! こういうの取り締まるのも鴉隊なんだろ!」  潤に言われて、八咫烏は宇陀川総代と抱えられている御所総代を改めて見やり、面倒くさそうに舌打ちをした。 「総代同士の揉め事を、鴉が取り締まり出来るか」 「何でだよ! 酷いだろ、困ってるのに見捨てるのかよ!」 「鴉隊は総庁の組織だ。総代間の争いは取り扱ってねえ」 「おっさんだって総代家の人じゃんか!」 「だから余計に、簡単には口出せねえんだろうが!」  なんだよこいつら!  じゃもう頼まねえ。鬼の目を宇陀川総代に向け、一瞬の隙が見えた。  一気に鬼化して総代を取り返す!  その時、肩に誰かの手が触れ、潤の体を衝撃が貫いた。  う、動けない!  倒れそうになり、一歩足を踏み出して、ギリギリ耐えた。  何だ、今何されたんだ? 「あれは誘いだよ、乗ったら斬られるって」  体が痺れて動けないところに話しかけてきたのは、月出さんと一緒にいつも八咫烏にくっついてる、お兄さんだった。 「ここは我慢しなくちゃね。あと、これで倒れないって、潤君凄いね」  え、止めてくれたってこと?  いや、もうちょい優しいやり方無いの?  遅れて、感電したと潤は気付いた。このお兄さん、雷使うんだ。  月出さんも、八咫烏の後ろで、こっちを心配そうに見ていた。  お兄さんは、にこやかに愛想良くあいつに呼びかけた。 「宇陀川総代、御所総代が八咫部のお気に入りだということは御存じですか?」 「知ってるさ、だから横からかっ拐うんだろうが。俺も、もう少し発言権が欲しくてな。いつまでも八咫部の爺ィに良いようにはさせねえつもりだ」 「御所総代を連れて行って、どうするつもりですか?」 「政略結婚てやつだ、嫁にする」  宇陀川総代がそう言った時の、三人の顔は、何て言ったらいいんだろ。  目が点、てやつ?  場が一瞬、静まり返った。 「はーん、そいつぁ……」  八咫烏が、ようやく言った。 「名案だな」 「え?」 「ちょっ、隊長……」 「何言ってんのおっさん!」  月出さんとお兄さん、そして俺がびっくりしてると、八咫烏は構わず、うちの総代に呼び掛けた。 「おい御所、手前ェならその馬鹿を、内から崩して潰す位ェは訳ねえだろ。宇陀川はその馬鹿より御所(てめえ)が仕切った方が、よっぽどマシになるだろうよ」  この言葉に、宇陀川総代は相当カチンと来たらしい。 「八咫烏、俺を馬鹿と言ったな?」 「個人的見解だ」 「三男風情が、調子に乗るんじゃねえぞ」 「あの鐵火起請(てっかきしょう)を目の当たりにして、そいつを嫁にした位で手前ェの思い通りになると思ってんなら、目出度えにも程がある。これが馬鹿でなくて何だ?」 「テメ、八咫部と思って俺が事を荒立てねえと思ってんじゃねえだろうな」  宇陀川総代が、刀の柄を離し、拳を握った。  あ、そうか、流石におっさんに斬りかかるわけにはいかないんだ。  その時、潤は総代がもぞもぞ動くのが見えた。  総代が再起動してる。  話が馬鹿とおっさんの口喧嘩に変わったから、正気に戻れたんだ。  殺気立って来た宇陀川総代と違って、八咫烏は両手をズボンのポケットに入れたままで、つまり全然戦闘態勢じゃなかった。  おっさんはそのまま、また御所総代に呼び掛けた。 「御所、この馬鹿面を俺が本部で二度と見なくて済むよう、念入りに潰しとけよ!」 「んだと、このクソ鴉……」  宇陀川総代は、すっかり八咫烏に気を取られて、御所総代が片方の手袋を外したのに気が付かない。  あ、アレだ。  総代が前に言ってた『触れると大変な事になる』ってやつ… 「ぎゃああああああああ!」  突然宇陀川総代が叫んで動きを止め、御所総代を抱えたまま、どすんと倒れた。
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