42人が本棚に入れています
本棚に追加
あった。
ようやく、見つけた。
紙で管理してた頃のファイルに在職中の死亡者が見当たらないのに気付いて、別のを探し、結局そっちにあった。
紙でも別管理にしてて、スキャンする時にそのまま別扱いで格納したんだろう。
こんな簡単な事にすぐ気付かなかった自分に、腹が立つ。
木ノ内伊織、享年三十。
沙野総代家からの出向。
鴉歴三年。
十年前、公務中に死亡。
うーん、木ノ内だったか。
圭一は血統書付には詳しくないが、木ノ内家についてはちょっと知ってる。
前に圭一を所属にスカウトしてきたのが、この木ノ内家だったからだ。あれは二年くらい前だ。
話に乗るつもりは無かったが、こんなことは滅多に無いし、好奇心で話を聞いた。
だがスカウトしてきた男と話してて、そのプライドだけはやけに高くて、うんざりした。
木ノ内は、沙野総代家の傍系とされるが、六百年くらい遡ればこっちが本流、なんて話を散々偉そうに話してた。
いや六百年前を持ち出して自慢て、なんなの。
その癖に中途を所属させようってのも、なんなの。
疑問に思って調べて見ると、怪しい話が出てきた。
沙野は長いこと、次期総代について二派に分かれて揉めていた。その揉め事がある時ピタリと止まった。片方の派の重鎮が相次いで亡くなり、もう一方にすんなり決まった。
それに木ノ内が絡んでいるのではないか。
噂に過ぎないと言えば、それまでだ。
だが、圭一にその『噂』を語った何人かは、一様に声を潜めた。
『木ノ内は呪うよ』
業界にいて今更呪いを怖れるなんて、おかしな話だ。まして、総代家の重鎮ともなれば当然御術使としても強力で、簡単に呪うことなんて出来やしない。
そのおかしな話を真顔で語られ、言い様のない薄気味悪さに背筋を冷やした。
結局、相手の話と噂を総合すると、ヤバいことやらせる要員にする気と判断した。
最初から断るつもりだったし、当然断った。
向こうからは胸糞の悪い捨て台詞を吐かれたが、何て言われたかは、もう忘れた。
俺との間にそういう、因縁というほどでもないが、そんなのがあるのが木ノ内家だ。
その木ノ内家と怪異先輩は、今繋がってるんだろうか?
鴉はもうこの事を掴んでるんだろうか?
いやそれより、ます報告しなきゃ。
御所総代と潤君を待たせ過ぎてる。
「伊東ちゃん、あった」
「マジ?良かった」
「とにかく、情報は手に入れた。話は後だ、出よう」
彰志とナベちゃんは連れ立って、本部の正門から入って来た。
外で今日分かったことをつい二人で話し込んでしまい、かなり待たせてしまった。
総代と潤が怪しまれていないことはないだろうが、とりあえず八咫烏にさえ捕まらなければ、あとはどうにかなる。
総代が総代会入会を決めれば、こういったことは、些細な話と片付けることが出来るだろう。
だが、詰所前のベンチが無人で、彰志はちょっと焦った。
慌てて周囲を探ると、潤が詰所内にいることがわかった。
そして、奴がいることも。
「は? 八咫烏が詰所にいる!」
「ええ? 御所総代と潤君大丈夫なの?」
一気に冷や汗が出る。
心拍数を上げながら詰所に行くと、中の鴉が何も言わずとも二人を応接室前に案内した。
扉前の廊下のソファに、潤が退屈そうに座っている。
この様子なら、色々無事らしい。
「遅れて済まねえ、八咫烏がいるな。総代が足止め策を用意してくれてて、マジ助かった」
「うん。それで、総代だから、取調室じゃなくて応接室で話を聞くんだって」
「総代、大丈夫なのか?」
「てか、他の総代って、詰所に連行されたことなんてあんのかな?」
ナベちゃんの疑問は彰志も気になるところだが、それより今は御所総代の事だ。
潤から、ここに至るまでの経緯を簡単に聞いた。
「まさか! じゃ、相当早い時間に八咫烏が帰って来たってことか」
「うっわ、知りたくなかった。寿命縮むんだけどー」
彰志とナベちゃんは顔色を変え、ガックリとソファにへたり込んだ。
本当に何もなくて良かった。
いや、起こった騒動はとんでもなかったんだが。
「で、それ以来ずっと、総代が奴に油絞られてるんだな?」
彰志が聞くと、潤は何とも言えないような顔して、二人に戸の方を指さした。
二人は、戸にそっと近づき耳をあてた。こういう時に忍ぶ技術は磨いており、その辺の血統書付きには劣らない自信はある。
最初のコメントを投稿しよう!