8 奥許し

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 そんな重要なことを、まるでお茶でも淹れるから飲めみたいな口調で、いきなり言われた。  老人は三回刀を振るい、納刀した。  続く無数の斬撃、地割れ、豪風。  鴉達は一斉に散った。  広く平らな草っ原は一瞬で豹変し、一面地割れと隆起で見る影も無い。  はるか向こう、周囲の雑木林が何十本と、一斉に倒れた。  これだけ離れているのに、大木は胴を根元から両断されている。また、風で根本から引っこ抜かれた木が大小、散乱していた。  殺気を感知する間も無く繰り出された、三つの技。  その威力に皆、言葉を失っていた。 「見えた奴はいるか」  大声で問われたが、名乗り出る者はいなかった。 「そうかい。じゃしょうがない(にゃあ)」  特訓の最終日の午後は、これだけだった。  他の鴉もやがて帰っていく中、彰志は長い間、そこから動けなかった。  その夜、彰志は大先生に呼び出された。  教官室に入ると、小柄な老人は椅子に座って愛想よく笑った。 「お前(おみゃあ)が伊東か」 「はい」 「中途だって言うじゃんか」 「はい」 「お前(おみゃあ)、あん時見えたのに、何で見えたって言わなかっただ」  大先生は勿体振ること無く、いきなり本題を持ち出した。  彰志は、それを見抜かれていたことに驚いた。 「見えましたが、自分には再現できません」  彰志が正直に答えると、大先生はハッハと笑った。 「見えたんなら、出来るだよ」 「無理です」 「無理じゃない(にゃあ)、見えたんなら、出来るはずだ。生きてりゃ必ずだ」  大先生の声は、彰志に響いた。 「中途だからって遠慮するこたァ無い(にゃあ)だ。やってみせろ。少なくとも、他の連中には俺の奥許しは、見えもしなかっただからな」  そう言われて、心の中に暖かいものが広がった、その感覚は今でも良く覚えている。  少しの間を置き、大先生は言った。  笑顔が消えていた。 「だから伊東、お前(おみゃあ)は鴉を辞めろ」 「え?」  言われている意味がわからなかった。 「これはアドバイスとかじゃ無い(にゃあ)。もう俺はお前(おみゃあ)を辞めさせると決めた。八咫烏(さぶろう)には言ってあるから、この後あいつの部屋に行って話してきな」 「何でですか?」  血の気が引く。ただ、そう聞くのが精一杯だった。  大先生はそんな彰志の顔を見て、溜息をついた。 「お前(おみゃあ)は、この先まず現場で命を落とすだろうよ。俺はそういう中途を、何人か見てきた」 「……」 「伊東、生きてこそだ」  大先生の言葉が、ずっと遠くから聞こえるような感覚だった。
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